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サラダを食べながらとても迷っていた。
もう一度、この人としたい。今夜どうですか、その一言を言うかどうか、とても迷っていた。

別にお金はある。だから口実がないのだ。ただしたいだけの変態だと思われたらどうしよう、とぐるぐる頭の中で迷いが躍っている。

食べ終えたら言おう、食べ終えたら。絶対。せっかくお昼に誘っていただけたんだ、今を逃せば無いかもしれない。無理に思い込みながら最後のレタスをフォークで刺す。

しゃきしゃきと煩い咀嚼音がどんどん小さくなっていく。最後にごくり、と喉に流し込んで水を手に取る。中の氷をひとつ食べ、がり、と噛み砕いた所で口を開いた。

「太宰さん、あの、今夜も、お願いできませんか…?」

本当小さな声だった。届いたか不安だったが、彼の耳はしっかり言葉を拾ってくれたようだ。

緊張しながら返事を待っていると、美艶(びえん)な弧を口元に(えが)

「ふふ、そんなに良かった?」

と尋ねてきた。図星だった。何も言えず俯き、自分でもわかるくらい熱くなる顔を手で覆うと、その手首を掴まれた。

そしてその掴まれた手を引き寄せられ、つぅ、と少しくすぐったいと感じる力加減でなぞられる。

ぴくり、と肩を震わせてしまった。

「じゃあ、今日はもう少しいいホテルに行こうか。スイートルームを予約しておいてあげる。」

惚れそうだ。なんて女性の扱いをわかっているのだろう。

「は、い、ありがとうございます…」

これまたちぎれそうな細い声で返事をすると、彼は胸ポケットからペンを出して紙ナプキンに何かを綴った。見て見ると、それはここからそう遠くないコンビニの名前だった。

「ここに、二十二時に来てくれるかい?迎えにいくから。」

「はい、待ってます!」

本当に恥ずかしい、はっきりと自覚出来るくらい明るい声が出た。その時、顔もきっと笑んでいたと思う。

早く夜にならないかな、と久しぶりに何かを楽しみに感じながら時間を潰した。

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作者名:こめこ | 作成日時:2018年4月28日 22時

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