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今の時系列より、少し前のお話。
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その日は私が食事を作る日だった。
しかし、何を作っていいかわからず、私は仕事を続けた。
不意に、乱歩さんの眺めていたテレビの画面に、お料理番組が映し出された。
アナウンサーが笑顔で喋る。
『みなさん、こんにちは。十五分クッキングのお時間です。今日は、旬のにんじんをふんだんに使ったシチューです』
私はその時、唐突に色々なことを思い出した。
お兄ちゃんは今日は帰る時間がよくわからない。家の蛍光灯のつき具合がよろしくないこと。だから敦さんに買ってきてもらおう。今日の晩ごはんは敦さんやお兄ちゃんのためにも温かいものがふさわしい。
「そうか……!シチューよ!」
思わず叫んでしまった。
テレビの前にぺたんと座っていた乱歩さんがビクッとしてこちらを振り向いた。
「銀ちゃん……どうしたの?」
乱歩さんの糸目とまともにぶつかり、私は慌てた。
「えっと…いや…あの……その」
乱歩さんは特に気に留める風なく、お料理番組を見続けた。
私はレシピを覚えることに必死で、その時は気づかなかった。
乱歩さんがそんな番組を見る筈がなく、それは私のためにつけられていたのだと言うことを。
乱歩さんのささやかな優しさが感じられて、少しニコリとしてしまった。
私はなるたけ仕事を早く終わらせて、スーパーへ向かった。
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作者名:空白時 | 作成日時:2021年11月26日 14時