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次の日。また影山くんは当番時刻に遅れた。

本人は(また)間違えて部活行ったらしいけど、私は当番をやりたくないだけなんじゃないかって疑わしく思える。


「図書委員って意外と仕事多いんスね」


利用者の貸し出しが終わった後。

影山くんが遠くの本棚を見つめながら言った。


「帰宅部は暇潰しになるし。私は好きだよ」

「俺部活行きたいんスけど」

「図書委員会に入ったきみが悪い」

「寝てたら決まってたんですよ」


私の声に被さるように早口で喋ってくる。

口が暴走気味なせいか、彼の体も前のめりになっている。


「でも、今はここで仕事してたいって思ってます」


愚痴タイムに差し掛かるんじゃないかって思った頃、影山くんはそう言った。

「それは良かった」って反応してあげるのが最適なんだろうけど、私には無理。

今みたいな言葉を掛けられたこともない私に、信用することはできない。



その日の帰り。

いつものように帰り道を歩いていると、ケータイが鳴った。

お父さんからのメールで、“コーヒーなくなったから、コンビニで買っといて。”と書かれている。


「……自分で買ってよ」


お父さんは夜勤でこれから家を離れる。

おつかいを頼むこと自体は問題ないけど、いちいちコンビニに寄るのが面倒。

お父さんのお気に入りコーヒーはコンビニ限定だけど、私はコンビニに行きたくない。

こんなところ、高校生の溜まり場じゃん。



嫌々足を進めていくと、目の前にコンビニが現れた。

ここらへんじゃ坂ノ下かこのコンビニくらいしかないから、高校生はやけに群がる。


店内に入ると寒いくらいに冷房が効いていた。

奥のドリンクコーナーでコーヒーを手にすると、声を掛けられた。


「へぇ。ブラック飲むんだ」


背後からにも関わらず、私は驚いていない。

広尾、ただ嫌気がするだけ。


「まあね」


無愛想に返事だけして、急ぎで会計を済ませた。

外に出ると湿気と高温が襲ってくる。


「Aさぁ、私に隠してることない?」


駐車場のコンクリートに座って、イタズラっぽい声で広尾が言った。

広尾は私によく話しかけてくるけど、それは単に仲が良いからじゃない。

「誰とでも話してるよ」って、フレンドリーアピールをしてるだけ。


「さぁ? 私には分かんない」


ちょっと涙声だったのが分かった。




声の行き先はどこでもなく、静かなこの田舎町に響いた。

▽→←第五章 久しぶりの感情



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ハルジオン(プロフ) - 太宰亜里沙さん» コメントありがとうごさいます。楽しんでいただけてなによりです! (2020年7月14日 17時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
太宰亜里沙(プロフ) - コメント失礼します!凄く面白くて一気読みしちゃいました!静かな夏の描写や素敵な影山をみれてとても読んでいて楽しかったです! (2020年7月14日 12時) (レス) id: 9865e50aa1 (このIDを非表示/違反報告)
ハルジオン(プロフ) - はるはるさん» コメントありがとうございます。夏の描写はかなり気を使っていたので、そのように言っていただけて光栄です! (2020年7月11日 13時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - 影山くんと主人公の不思議な関係、対して、鮮明な夏の描写。素敵な文章に幾度も胸をきゅっと締め付けられるようでした。最後の文章で、一気に世界が色づくような錯覚を覚え、思わず泣きたくなるような気持ちになりました…! (2020年7月11日 2時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ハルジオン | 作成日時:2020年6月21日 13時

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