15 近づく闇と光を知った＊ ページ27
キルリア様、と呼んだねっとりした声色に、ビクッと肩が跳ねた。
(…この声は確か、スパイ調査班のアルテミラ…)
大方の予想をつけ、ギリギリと音がきしむかのような動きで背後を確認する。
最悪だと思った。
「もしかして、アラウディ様の所へ？
でも、少々私の話に付き合って下さいませ」
有無を言わさぬ言葉が、血のように真っ赤な唇から漏れる。
気味悪いそれから視線を反らせば、目に入るのは真っ赤なマニキュア。
「…いい趣味をお持ちだ」
「あら、ご無理なさらないで下さいな。
それに私、そんなお世辞は聞きたくないの」
グラマラスな体型にちりばめられた赤を吐き捨てるように拒絶すれば、アルテミラはそれがわかっていたかのように口角を上げた。
彼女は私の女嫌いを承知しているらしい、ならば一体何の用だろう。
医療班である私とスパイ調査班である彼女、何か接点を持つべき仕事があっただろうか。
香る甘い香水に眉を寄せながら考えていれば、クスッと笑ったアルテミラ。
「本当は、アラウディ様の所ではなく…どこぞの雌猫に餌をやりに行くのかしら」
「＿＿＿＿っ!!」
明らかに不快感を含んだ言葉に、体が硬直する。
笑みを張り付ける事さえ忘れた私に、アルテミラは歌うように続けた。
「…報告書、拝見させていただきましたわ…
随分と陳腐な嘘をお吐きになりますわね？」
「アルテミラッ…!!!」
はっきりと軽蔑を浮かべて彼女を睨み付ければ、負けじと睨み返される。
「…別世界からやって来た……？
とても真実とは思えませんわ、キルリア様。
何にせよ、アラウディ様に助けられたというのに病室から一切出てこない無礼……。大変許しがたく存じますわ」
お前に何が分かる？
幸せから唐突に放り出された哀れな人間の想いが分かるか？
馬鹿言え。
(今も両親から兄弟から加護を受ける、恵まれた御嬢様に何が分かる＿＿＿＿!!)
溢れ出しそうな不満と憤りに、声にならない吐息を漏らす。
どくどくと激しくなる鼓動を落ち着ける内に、忌まわしい赤は視界から消えた。
(…今度、フォートナード兄妹の白い口紅でも投げつけてやろうか……)
脳裏に残る血の色に毒づきながら、ガラス越しに見えたアラウディの執務室。
そこに、彼がいた。
二日前から目にしなかった姿に目を見開く。
だが、彼の背中には迷いはなかった。
私に相談して出ただろう結論を、上司に力強くぶつけるのだろう。
「…頼んだよ、ルーア」
少しだけ、心が晴れた気がした。
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千桜(*_*)(プロフ) - 続きがとても気になります！続編楽しみです！ (2013年12月17日 10時) (
レス) id: e811a56b71 (このIDを非表示/違反報告)
音葉(プロフ) - このお話、とっても大好きです！更新楽しみにしてますね！！影ながら見守っています(=ﾟωﾟ)ﾉ (2013年7月29日 12時) (レス) id: 79ec10fac5 (このIDを非表示/違反報告)
霙@kutiki(プロフ) - ギャグ小説の方からジャンプしてきました！こっちもとても面白くて、続きがとても楽しみです！！更新頑張って下さい応援しています♪p(^-^)q (2013年7月21日 16時) (レス) id: 7b0e251a07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢霧 | 作成日時：2013年7月3日 17時
