松野家の隣人ちゃん2 (ページ35)

今日:8 hit、昨日:20 hit、合計:261,474 hit

81. ページ35

*一松

『は～､夏のアイス至福～』

コンビニで買ったアイスを蝉の騒がしい近所の公園のベンチで貪る｡

こんなに暑いとちびっこも公園で遊ぶ気が起きないらしく､公園には僕達以外人っ子ひとりいなかった｡

『こう毎日暑いとまいっちゃうね』

「水分補給はこまめにして､体調が悪くなったらすぐ俺に言うんだぞ｡いいな？」

『大丈夫だよ､心配性なんだから』

「だめだ､ハニーはすぐ無茶するからな」

『カラ松保護者みたい』

「ハニー」

『わかったわかった｡辛くなったら言うね』

左端に座る僕の右隣に腰掛けるA｡MOWの苺をプラスチックの小さいスプーンで食べながら､彼女の右隣に座るクソ松とべらべら喋ってる｡

「…」

ちらりと横目でその楽しそうな姿を眺めながらピックを突き刺した溶けかけのピノを口に運んだ｡

セーラーの薄い生地に汗が滲んで､焼けた小麦色の肌がうっすら透けてる｡揺れるポニーテールからちらつくうなじがなんかちょっとえろい｡

『カラさん制汗剤のいい匂いする』

「汗臭くてはレディに不快な思いをさせてしまうかも知れないからな」

『べつに汗臭くてもいいのに』

「ハニー…」

相変わらず容姿だけは整ってて､ぱっと見なら学生が青春するシーなんとかのCMのワンシーンみたいだ｡僕には関係ないけど｡

そう､僕には関係な

『イッチ何にしたの？』

一瞬下を向いて顔を上げるとすごくすごく近くにさっきまで見てたAの顔があって､喉がごきゅっと変な音を鳴らした｡

「えっ…ピノだけど」

『あ､いいな､いっこ』

あ､と丸く開いた小さなくちのなかにそろそろとピノを入れるとぱくん､と閉じる｡

体温がぐわっと上がり､血管が破裂して身体中の穴という穴から血が吹き出しそうな感覚に襲われた｡

『ん～おいしい！久々にピノ食べた』

「そう…よかったね」

『イッチありゃと､MOWあげる～』

ピンクのアイスをすくった小さなスプーンが僕の口元に近付いてくる｡イチゴの甘酸っぱい匂いを吸い込むと何故だか変にどきどきしちゃって｡

「いや…いい､今気分じゃないから」

『そう？んー…じゃあカラさん食べる？』

「遠慮なくもらおう」

『はいあーん』

どうにかなってしまいそうで怖くて｡顔を逸らすと､彼女はしょんぼりしながらスプーンの行き先をクソ松へ変更した｡

このあと断った自分をめちゃめちゃ恨んだというのは言うまでもない｡

.