松野家の隣人ちゃん2 (ページ22)

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「……どんな奴なの」

『へっ』

「その…かっ､彼氏って」

『チョロちゃん何どもってんの』

「うるさい」

小声でそう訊いてきた彼に
私はほんの少し安心していた｡

図書館でチョロちゃんとふたりきり｡
並んで席に座ってテスト勉強中｡

あつしくんは今日はバイトだそう｡
あんなスパダリもバイトするんだ…｡
一応勉強会の話はしておいたから大丈夫｡

『頭よくて､優しくて､容姿端麗』

「なんか惨めんなってきたわ」

『とっても素敵なひとなの』

「…」

テスト課題のワークに数式を書いて
ふと左隣を見れば頬杖ついた三男が
はあぁ…と盛大な溜め息をついた｡

「Aが幸せならいんじゃない」

『やだチョロちゃん優しい』

「これが普通だろ」

普通｡ふつう……うーん…?

数日間の内容が濃すぎて普通ってことが
なんかよく分からなくなってる気がする｡

「…色々､あったんでしょ｡ウチのと」

『知ってるの?』

「あのクズ達も反省してたから」

『…』

「許してやって」

『うん』

「よし､いい子」

『子供扱いやめてよ同い年』

何度見ても整った形の手に撫でられる｡
やっぱしチョロちゃんもお兄ちゃんだ｡
寝る前にしてくれたら安眠できそう｡

「まぁ､僕は応援してるからさ」

『チョロちゃんが素直で気持ち悪い』

「折角いいこと言ってんのにお前…」

『まぁ…ありがとう､うん』

「ツンデレかよ」

そう言ってまたワークに戻る彼｡
しかしすぐシャー芯が音をたてて折れた｡
かちかちかちかち静かな室内に音が響く｡

『シャー芯がさ』

「うん」

『1日に3回折れると失恋するんだって』

「言わなくていいよねそれ､1回目だし」

『ちっちゃい頃､おまじないの本でみた』

「あーお前､そういうの好きだったね」

『今となれば黒歴史だけどね』

ワークに書いた数式を解いていく｡
こんなの将来使うのかなぁ…なんて
思ったらほとんどそうなるから忘れる｡

ぼきっと隣でまた音が鳴った｡

『…』

「どうしようA」

『チョロちゃん乙女かよ､鉛筆使いな』

何故か泣きそうな彼に胸がひどく痛んだ｡
鉛筆を彼のノートの上に置いてさっさと
数学のワークに戻る｡多分これが最善策｡

「Aに彼氏とか信じられんわ」

『失礼です』

肘で腰をぐりぐり押してやる｡

「まあ相手の野郎の気持ちもさ」

『…』

「分からなくもないけど」

『チョロちゃんが口説いてくる』

「口説いてないから」

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