深い夜におはよう ページ1
「起きて、A！夜だよ！」
誰かに揺さぶられて、まだ重たい瞼をこじ開ける。
ぼんやりと視点の定まらない眼を左手で擦ると、段々と輪郭がはっきりとしてきた。
「……ヴィオレッタ…？」
掠れた声で名前を呼べば、嬉しそうに声のトーンを上げた。
「もうみんな起きてるよ！はやく！」
大きな蜘蛛の足で体を支えられながら起き上がる。
起きた時ってどうしてこんなに眠たいんだろう。寝ていたはずなのに。
「今日はどれを着るの？私が選んでもいい？」
そう聞きながら、ヴィオレッタは私のクローゼットを開いて中を物色する。
そんな後ろ姿にいいよ、と言葉を返す。
しばらく待っていると、ヴィオレッタは1着のワンピースを手にこちらを振り向いた。
「これ！着てみて！」
渡されたのは黒シャツのワンピース。
ついこの間、ジャックさんから贈られたものだ。
上等な生地で作られたこれは、とても肌触りがいい。
「じゃあそれ着たら食堂に来てね！みんなAのこと待ってるよ」
それだけ伝えると、ヴィオレッタは早々に自慢の糸を使って私の部屋から出ていった。
＊
準備を終えて部屋を出る。
この広い屋敷の中には一体いくつの部屋があるのだと思うほどに、廊下にはドアが並んでいた。
赤と黒を基調としたデザインのこの屋敷には、現在私を含めて8人が暮らしている。
私は物心ついた時には既にここにいて、みんなに囲まれて育った。
でもどうしてか、私はみんなより小さく弱く生まれてしまって。
私だけが、この屋敷で異端。
それを嘆いた時期もあったけど、そんな私を受け入れてくれたのはみんな。
ここが、私の居場所。
程なくして食堂につくと、既に私以外は集まっていた。
その中に、私がより一層大好きな人物もいる。
みんなに挨拶していると、その人物も歩み寄ってきた。
「おはようA｣
「おはようジャックさん！」
右手で優しく私の頭を撫でてくれるジャックさん。
私が大好きな人。
表面上では平常心を保っているけど、内心とてもどきどきしてる。
心音が聞こえてないといいけれど。
「寝癖がついているよ」
「えっ、うそ！さっきしっかり確認したのに」
慌てて髪を直そうとすると、ジャックさんが手櫛で直してくれた。
それにお礼を言うと、ジャックさんはくつくつと笑った。
「寝癖がついていても、Aは可愛いけどね」
「…！」
この人、絶対わざとやってる！
(深い夜におはよう)
続く
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作者名：珈 | 作成日時：2018年8月26日 8時
