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「……っ、」
言葉が出なかった。
伊作先輩から聞いたことはあまりにも衝撃が強く、到底信じられない事で。
だけど嘘だとは思わなかった。だって伊作先輩はそういう人だから。
「ごめんね。暗い話だったよね。」
「いえ、聞かせてくれてありがとうございます……」
だから本当なはずなのに。
それなのに、私は、
「でも、ごめんなさい。覚えて、ないです」
何一つ思い出せない。
それが、歯痒くて悔しい。
「謝らないで。君もあの子達も悪くない。ただ、時代が悪かったんだ。」
あの時代はいつ誰が死んでもおかしくなかった。
私達上級生の中にも授業中に命を落とした人はいる。そしてあの時死んだのが、私だっただけなのだから。
「仙蔵、君はどう思った?」
「……ああ、そうだな。ただただ懐かしいな、と。」
そう思っただけだ、と言って何杯目か分からない熱燗を飲み干す立花先輩の顔色は変わらない。
「立花先輩、」
「ん?何だ」
「私を恨んでますか?」
先輩を守れず、あろうことか彼女の心に傷をつけた私を、恋人だった彼は許してくれるのか。
それがひたすら、怖かった。
「まさか。お前を恨む時間が勿体ない。」
「相変わらずですね……」
「だが……彼女が昔のことを覚えていないのは
お前を失った後悔を思い出したくないから、そう思ってしまうんだ。お前は何も悪くないのに。」
「……立花先輩は、今もあの人がお好きなんですね。」
今の私は笑えているだろうか。
人の機敏に聡いあの人に気づかれていないだろうか。
.
「勿論。今も変わらず愛してる。
お前達と一緒にいる間も、彼女のことばかり考えてしまう。」
柔らかく笑う立花先輩が涙を堪えているように見えて、私は思わずまた声をかけた。
「せんぱ__」
「私も相当酔っ払っているみたいだな。
済まない、先に帰る。文次郎、お前も帰るぞ。」
「おい留三郎勘違いするんじゃねぇぞ!俺は仙蔵に頼まれて仕方なく帰るんだからなァ〜!?」
「気が変わった。伊作、この阿保は置いて帰る。
今日の飲み代を支払うことを私が許可しよう。」
「は〜い」
そう言って上着を持って立花先輩はお店を出た。
「まぁ千代峯は千代峯らしくいればいいよ。
ちゃんと分かってくれる人は絶対いるから。」
「そう……ですね。私、最近皆以外に友達も出来たんですよ。」
「へぇ。女の子?」
「男の子ですよ。輪道晋太郎くんって言うんです。」
.
「……うん、そうなんだ」
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来夢(プロフ) - とても素敵な作品ですね!更新待ってましたぁぁぁあ!!!これからも頑張って下さい( ̄^ ̄)ゞ応援してます! (2020年10月20日 23時) (レス) id: cfa50364df (このIDを非表示/違反報告)
おもち(プロフ) - とても素敵な作品をつくってくださりありがとうございます!いつも続きを楽しみにしてます!これからも無理せず頑張ってください! (2020年3月19日 10時) (レス) id: 6604df6f14 (このIDを非表示/違反報告)
来夢 - 私この作品がとても好きです!いつも新しいお話が出るのを楽しみでワクワクしています!これからも応援してます! (2020年2月29日 22時) (レス) id: 0c53dd61ea (このIDを非表示/違反報告)
アクヤ(プロフ) - 続編だ〜!!めっちゃうれしいです!これからも頑張ってください!応援してます!! (2019年12月21日 14時) (レス) id: 64d635022a (このIDを非表示/違反報告)
るーじゃすどれいんw(プロフ) - 続編ありがとうございます!これからも更新頑張ってください!この作品が大好きです。応援してます! (2019年12月20日 22時) (レス) id: 6c9d28df35 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無音 | 作成日時:2019年12月20日 21時