その一杯に、心、揺れて (ページ19)

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時刻は夕方4時を回って、そろそろ上がりの時間。
ついに今日は彼と会えないで終わるのか…と落ち込んでいたその時、待ち望んでいた声がした。

fk「コーヒーふたつ」
「かしこ…え、おふたつですか？」
fk「そ。お願い」

振り返って改めて彼を見ると、近くの会社の社員証をぶら下げ、黒縁のオシャレなメガネをかけていた。
いつもとは少し違う装いに、また胸がドキッとする。

そして彼の隣には、同僚らしき男性が一人。
ああ、だから二つなのか。

ふと、社員証に書かれた彼の名前が目に入る。
「ふかざわ、さん…」
fk「うん、深澤です。んで、こっちが阿部」
「…！」

頭の中で唱えたはずの名前が口に出ていたことに気づいて赤面する。

「あ、あの、今日いつもの時間にいらっしゃらなかったので、何かあったのかなって…すみません」

取り繕うように言ってみるけれど、あれ、これ、墓穴掘ってない？

fk「えー、気にしてくれてたの？ありがとぉ。今日ねぇ、大事なコンペの日で朝からバタバタしてて…今無事終わって、サボりに来たとこ」
ab「おいやめろよー、サボりだなんて人聞きの悪い」

「そうだったんですか。ということは、お二人は会社の？」
fk「そう、同期なの。阿部ちゃんには今回のコンペでも色々助けてもらっちゃって、だからそのお礼」
ab「別に何したわけでもないんだけどね」
「ふふっ、じゃあ、とびきり美味しいの作らないと」

深澤さんは私の失礼にも嫌な顔ひとつせず、逆に気遣って色々教えてくれた。

あの時名前を口走ったのは、むしろラッキーだったかもしれない。
こうなったらもっと色々彼のことを知りたいな、なんて、それは調子が良すぎるか。

『顔にやけてるわよ』

嬉しそうにコーヒーを受け取って帰っていく彼の後ろ姿を眺めていたら、またしても先輩に笑われた。
でも、初めて彼と話せたんだもん、こうなるのもしょうがないよね。