Wolf (ページ21)

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予感ページ21

＊

__________ドンッ

少しの間ソファーでゴロゴロしていると、急に玄関の方から聞こえてきた鈍い音
なにかがぶつかるような音。
その直後にドアが閉まる音がした。

私はソファーから立ち上がりリビングのドアに再び手をかけ、少しためらいながら開ける。
その瞬間、いつもの“あの”においが鼻を通り抜けた。

「っ…！」

ドアを開けると廊下を進んですぐそこにある玄関。
そこには彼が立っていた。
なぜか右手で左の肩らへんを押さえ…
逆光で表情がよく見えなかった。

血の匂いなんて、そんなもの考えなかった。
私はただ一目散に廊下を蹴り、彼の目の前へ行く。

でも、近づくにつれはっきりとしていく彼の表情。
その表情に明らかに不信感を抱いた。

「えっ…」
『っ…』

ちょうど彼の目の前、そして抱きつこうとした時、
それよりも前に彼がこちらへ倒れてくる。
その瞬間、いつにも増して鼻をつく血の匂い。
彼の香水なんてかき消すくらいだった。

ドサッという音とともに廊下に二人で倒れこむ。
私はすぐ起き上がったが、なぜか彼は動かない。

「ねっ、ねぇ…」

私は彼の肩を掴み、揺らす。
でも彼の表情は歪んでいて、それを変えることはなく目も開けなかった。

「っ…！血…」

彼の体を触っているとふと手に感じるヌルっとした感覚。
よく見えず、顔を近づけてみると強く香った匂いとともに真っ赤な血が目に入った。
私は思わず彼を見る。
よく見ると彼は尚も肩を押さえ、そしてその押さえる指の隙間からは血が流れ出ていた。

なにが起きたのかわからない…。
わからなかったが、私の手は震えていた。
それだけわかった。

「きゅっ、救急車」

無意識につぶやいたそれは無意味と化する。
救急車なんて呼んだら、彼はどうなる…。

「あっ、ほっ北人さん…」

私は彼のポケット、ズボンを躊躇なく触る。
すると探し求めていた硬い感触。
私はポケットに手を突っ込むと、彼の携帯を取り出した。

携帯なんてあまり触ったことないけど、一心に北人さんの連絡先を探す。

“吉野北人”

目の写ったその画面を急いで押す。
通話画面になった途端、すぐに声が聞こえた。

・

『“あっ壱馬～？”』

「ほっ北人さん…！今すぐ…」

『“え、Aちゃん？”』

「早くっ、壱馬が…」

私がそう放った瞬間、電話が途切れる。
耳には機械音だけが残った。

・