Wolf (ページ13)

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『あぁ、今すぐ来てくれん？なるべく早く。頼むわ』

ナイフをしまうなり携帯を出して誰かに電話をした男。
相手の慣れたように話す姿を私はその場から動けずに見ていた。
男を見るたびに視界に入るおじさんの死体。
溢れ出る血の量もその匂いもだんだんキツくなってきていた。

「うっ…」

そのせいだろうか、目の前が真っ白になり倒れそうになる体をなんとか車のドアを掴んで堪える。
身体中を吐き気が襲うが、吐けるものがなく胃液の味だけが口に広がった。
溢れ出しそうになるのを口を押さえて、必死で耐える。
苦しくて、つらくて、生理的な涙が目尻にたまり、頬を伝った。

『めんど…』

涙の流れる目の端に黒いパーカーが映ると、鼻を抜けるいつもの匂いとともに低い男の声が耳に入った。
いつ電話を切ってこっちにきたのかわからないが、わたしは辛さが勝ってしまいそれ以上考えられなかった。

男は車のドアにかける私の手を首に回すと、体を持ち上げ横に抱き上げる。
その反動で余計に気持ち悪さが増す。
力が入らず、そのまま頭を男に預ける形となった。

『吐くんなら吐いていいから』

玄関へ歩きながら男はそう言った。

玄関から家の中へ入ると、男は靴を脱がずにそのまま廊下を進んでいく。
突き当たりにあったドアを開けると、私をゆっくりと下ろした。

動けない私は力なくそこにうずくまってしまうが、男はそんな私の体を支える。
うっすら開けることができる目から見えたのはトイレの個室だった。

「っ_______________！」

吐きたいのに吐けない苦しさ。
空っぽの胃から胃液だけが出てくる。
トイレにしがみつく私の背中を男は優しくさすってくれた。

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