いちご水２ (ページ12)

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５８water ページ12

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昨日、カラオケで

遥に強く肩を押された。

その時、テーブルの角にぶつけて負った額の傷。

その傷口をどうにかして隠そうと、

昨夜のうちにガーゼを貼り付けておいた。

それが上を向いたことにより堂々と姿を現し、

その生々しい痛々しさから目を離せずにいるのだろう。

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「えっ、と……これは………」

私は言葉を曖昧に濁し

なんと説明すればいいのかわからなくなって

とっさに俯いた。

いくつもの言い訳を思い浮かべながら、

あらゆる葛藤を巡らせる。

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できることなら安易に聞かれたくはない。

「どうしたの？」とか

「何があったの？」とか

今はまだ、知られたくない。

いじめを受けているという事実を。

名前しか知らないこの男に

何をどこからどう説明したらいいのか、

正しい言葉が思いつかない。

それに、その事実を知られることで

どう思われるかわからない。

たとえ同情を受けたところで

空いた穴がうまるわけでもなければ、

化膿した傷が消毒されるわけでもなく、

それどころか

『お前が悪い』

などと一方的に責め立てられたり、

冷たく一瞥されでもすれば

立ち上がる気力をさらに失ってしまうだけのことに

なるだろう。

自分以外の誰かを簡単に信用することほど

危ういことはないから。

一度信じた相手に裏切られることほど

苦しいものはないから。

お互いを知っていくうえで、

言わなくてもいいことや

隠しておいたほうがいいこともある。

今の私にとって、＂いじめ＂とは

そういうことでもあるから。

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『俺さ、雨ってどうも苦手。

でも不思議と雨の匂いは嫌いじゃないんだ』

さらっとそう言って、男は柔らかく微笑んだ。

明らかに気付いているはずなのに、

私の予想を覆し、傷口については何も触れてこなかった。

面倒だったのか、ただ単に興味が無いだけなのか

どちらにせよ、土足で想いに踏み入ることなく

あえて痛みに触れないでいてくれていることに

信用という感情にはまだ程遠く。

だけどほんの一歩近づいて、

単純な私の心の扉はゆっくり

本当に本当にゆっくりだけれど

開いてゆくのを

感じることができた。