【銀魂】己の行く道 交差する心【土方十四郎】

離さなかったおかげで ページ40

Aside


…本当に、嘘みたいな、フィクションみたいなタイミングで私の目の前に土方さんが現れて、彼はまた私のことを救ってくれた。もうダメなんじゃないかと。私は連中に負けて、彼等にはもう会えないんじゃないかと。そんなことを思っていた時だった。身体は動かないし、そんなことに構いもせずに敵は容赦なく私へと刀を振り落とそうとしてくるし。そんな状況を覆すものなんて何もなくて、悔しさに涙が滲んでいた時だった。土方さんはいつだって、私が追い詰められている時に来てくれる。唐突に現れて、私のことを護ってくれる。今までも幾度となく私は彼に護られてきた。その度に、彼は私に優しげな目を向けてくれた。その目はまるで、もう何も心配いらないと。怖がることなんてないんだと囁いてくれているみたいで、不安や恐怖で強ばっていた身体は安堵に包まれていった。

…かじかんだ手のひらをそっと握るように。寒さに震える身体を抱き締めるように。彼の有り得ないくらいの優しさは、いつだって私を護ってくれるのだ。今もそう。今だって、私は彼に護られている。


…けれど私はまだ、彼に何も返せていない。まだ何も、大切なことを伝えられていない。だから、帰らないといけない。真選組は、私の居場所なのだから。

…彼が私を仲間だと言ってくれたから。ここに居ていいんだよと言ってくれたから。真選組副長補佐という、名前をくれたから。


…真選組か鬼兵隊か。選ぶまでもない。


「…私の居場所は、真選組です。なんてったって私は、真選組副長補佐なんですから」


…私は、真選組でありたい。真選組にしてくれた彼等の傍に居たい。そして、口には出さずに心の中で呟く。


…私は、貴方の隣に居たいんです。


けれどそれを伝えるのは、あの場所でがいい。約束した、月明かりに照らされた縁側でがいい。だから、まだ伝えない。代わりに私は手を伸ばす。彼に向かって、真っ直ぐに。


「……貴方が私の手を離さなかったおかげでね」


…私が真選組で居ることを諦めようとした時。紅の舞姫だということが彼等に知られた時。それでも土方さんは、私に手を伸ばした。躊躇うことなく手を伸ばして、言った。


『帰るぞ、A』


その手のひらがあったから、私はここに居る。私は真選組でいられたんだ。真選組が、私の居場所になったのだ。


「…私はあの時の貴方の手を、離すつもりはありません」


…今更、離すことなんて出来はしない。

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