否定する権利 土方side ページ39
…真選組に帰ってくるのか、鬼兵隊としてここに残るのか。それを決めるのはA自身だ。俺はそれ以上何も言うことなく黙ったままAを見据えていた。次にこの場に声が響くとしたなら、それはAの声であるべきだ。Aの声が、自身が出した答えを告げる時であるべきだ。俺はAを見つめていて、Aは俺を見つめている。何処にも逸れることなくこちらを見るAのその目に映る俺は、どんな風に見えているのだろうか。自分の望みが顔に滲んでいないことをひたすらに信じるだけだった。帰ってきてほしいと思っていることが、ソイツに伝わっていてはいけないのだ。意図して笑いもせず、悲しみもしない。
…俺自身は。真選組は、Aの旧友達は、Aが帰ってくることを望んでいる。その望みを胸に、今ここに居るのだ。戦っているのだ。Aを取り戻すために。けれど、きっとAがここに残ることを決めた時、きっと誰も何も言えないのだと思う。
…ここには、鬼兵隊には、Aの元恋人である高杉晋助が居る。Aが10年間想い続け、追い掛け続けてきたソイツが、ここには居るのだ。Aはここで、高杉の野郎と会い、話をしただろう。言葉を交換し合ったのだろう。長いこと想い続けてきた相手が目の前に居て、手を伸ばせば触れられる距離に居て、それなのに何とも思わない訳がない。嘗て傍に居続け、誰よりも大切だと思えていた相手なのだから。Aが鬼兵隊に残り、高杉の傍に居る選択を選ぶ可能性は、大いに有り得る。
…ここに残ることが。それがAにとっての幸せなのだとしたら。それを否定する権利なんて誰にも持っていない。だから俺は、Aが鬼兵隊を選んだとしても、何も言うつもりはない。受け入れて、ここを去るつもりだ。余計な言葉なんて残さずに、背を向けるつもりだ。
俺はAからの返答を待つ。その時間は数秒かもしれないし、数分だったかもしれない。時間を観測するものが手元にないので分からないが、俺にはその時間が長く感じられた。
…そうしてAは口を開く。真顔のまま、ぽかんとした顔で。
「…それは、わざわざ聞く必要のある事ですか?」
そんなの、決まってるじゃないですか、と。Aは続ける。少しだけ怒っているように口調を強めながら。口角を上げて、宣言するように。
「…私の居場所は、真選組です。なんてったって私は、真選組副長補佐なんですから」
貴方が私の手を離さなかったおかげでね、と。Aは言って、俺へと手を伸ばした。
真っ直ぐに、何かを掴もうとしているようだった。
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ちあき(プロフ) - 感動する(TT) (2018年5月11日 19時) (レス) id: 3135ea492c (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» 返信遅れてごめんよ!!そう、なんとも複雑なトライアングルが出来上がったよ(笑)続篇も出すからそっちでもお楽しみにあれ!! (2018年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 零さん» 返信遅れてごめんなさい!!土方さんがやっと夢主ちゃんに会うことが出来ました!!小競り合いをする二人を書くのが久しぶりだったので楽しかったです!!続編も出ますので、そちらでもまたよろしくして頂けたら嬉しいです!!ありがとうございます!! (2018年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - んふ、元彼と今彼のご対面ですね、、、! いやはや、楽しみでしょうが無いです。 (2018年5月2日 22時) (レス) id: 8b211097c0 (このIDを非表示/違反報告)
零 - 土方さんキター---!!!いつもの二人が帰ってきた!!23点って確かに容赦ない(笑)でもそれでこそこの二人だ!と思いました。更新が楽しみすぎて毎日スタンバッてます!! (2018年5月1日 20時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年4月11日 18時