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一人ぼっち ページ20

「…斬れる訳がないでしょ」


…こんなタイミングで、劇的なまでの爆発音が響き渡ってくれれば良かったのに。私の声を跡形もなく掻き消して、こんな声なんてなかったかのように出来たら良かったのに。運悪くそんな大きな音は何処からも聞こえてはこなくて、静かなこの空間に私のそんな声がしっかりと響いていた。掠れていて、まるで泣き声みたいで、けれど泣かないように我慢している、幼い少女のような声だった。涙で視界が滲みそうで、目元が熱くなって、私は一度ギュッと固く目を瞑った。目から零れ落ちないように、涙を閉じ込めるようにギュッと。数秒目を閉じて、そのまま息を吸い込んでは吐いて、それから目を開く。無機質な鉄の壁に、鉄の床と天井に囲われた通路がそこに伸びている。これから私が通る道だ。仲間達の所へと繋がる道だ。その先を見据えるように、私は前を見る。

…大丈夫。ちゃんと前は見えている。私はちゃんと、真っ直ぐに歩いていける。そう暗示をかけるように、心の中でそう呟いた。すると、万斎は口を開く。


「…情でも湧いたでござるか」

「……そうね、そんな感じだよ」


情が湧いた。うん、とてもわかりやすい表現だ。それに、今の私の心境によくリンクしているような気がする。しっくるとしてくる。正しい心情を指定の文字で問われるような問題で、ピッタリと当てはまるような。一週間も一緒に居た人達に情が湧いて斬ることが出来なかった。説得力がある。


「紅の舞姫に情か……随分と人間くさいでござるな」

「だから、私だって一人の人間なんだってば」


私のことを何だと思っているのだろうかコイツは。どんだけ人間味のない奴だと思われていたんだ私は。失礼な話だ。私よりもよっぽど、武市や万斎の方が人間味がないというのに。そんなことを思いつつ。垂れている髪を耳にかけながら、私は「それにね、」と続ける。

これは言うつもりのないことだった。言葉にするつもりのないことだった。けれど、どうせここまで見破られているのだから、何もかもすべて喋ったって変わらないかと思った。


「…私は、10年前、晋助のことを一人ぼっちにしたんだ」


…傷付いた晋助の心に、寄り添えなかった。晋助の心を穿った傷からは、ドクドクと血のような感情が溢れ出ていて、それは止まることを知らなくて、そのうち傷は化膿していった。私の知らぬ間に、彼はどうしようもない痛みに苛まれて、そうして彼は変わってしまったのだ。

…彼は弱い私をおいていった。必要ないと言い捨てて。けれど、それは同時に、彼が孤独になった瞬間だったのだ。

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 真選組、攘夷   
作品ジャンル:アニメ
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ちあき(プロフ) - 感動する(TT) (2018年5月11日 19時) (レス) id: 3135ea492c (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» 返信遅れてごめんよ!!そう、なんとも複雑なトライアングルが出来上がったよ(笑)続篇も出すからそっちでもお楽しみにあれ!! (2018年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 零さん» 返信遅れてごめんなさい!!土方さんがやっと夢主ちゃんに会うことが出来ました!!小競り合いをする二人を書くのが久しぶりだったので楽しかったです!!続編も出ますので、そちらでもまたよろしくして頂けたら嬉しいです!!ありがとうございます!! (2018年5月9日 19時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - んふ、元彼と今彼のご対面ですね、、、! いやはや、楽しみでしょうが無いです。 (2018年5月2日 22時) (レス) id: 8b211097c0 (このIDを非表示/違反報告)
- 土方さんキター---!!!いつもの二人が帰ってきた!!23点って確かに容赦ない(笑)でもそれでこそこの二人だ!と思いました。更新が楽しみすぎて毎日スタンバッてます!! (2018年5月1日 20時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/  
作成日時:2018年4月11日 18時

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