かさねあい【九井一】

初恋.15 ページ15

貴「はじめくん！」
九井「……おう」

家に帰ればAが笑顔で出迎えてくれた
でも俺はどうしても明るい気分になれなくて

曖昧に返事をした
貴「会いたかったぁ…好き、大好きだよ！」

九井「は、は、？酔ってるのか？」
貴「素面だけど…？」

九井「そ、そうか…」
謎に納得させられたが…

どう考えてもおかしいだろ
数時間前まで気まずい感じだったのに

何かあったのか？
九井「…嫌なこととか…あったか？」

貴「何も無いよ。ただはじめくんに好きって言いたくなっただけ」

九井「…何か欲しいものでもあるのか？」
下心があるようにしか見えないのだが…

買って欲しいものがあるなら言えばいい
すぐに買ってやる

貴「…違うよ。でもはじめくんからの愛は欲しい」
九井「……さっき拒絶したろう」

貴「それはごめんなさい。でも、愛情の伝え方ってそれだけじゃないと思うの」

そう言うと家の中に入るよう言われた
それだけじゃ、ない…

Aの言葉を頭の中で繰り返す
ソファーに並んで座る

貴「お金をかけたり、キスをしたりするだけが愛じゃないよ。言葉でも十分伝わるよ」

俺の手を握り笑う
貴「これだけでも温かくなるでしょ？」

確かに触れている左手が
それよりもっと奥の心臓が温かい

貴「一緒に時間を過ごすだけじゃ、ダメかな？何でもない日々が続けばいい、はじめくんはそう思わない？」

テレビをつけて
芸能人の一言に笑った

何でもない日々が続く
赤音さんがいることが当たり前だった毎日

それはこれ以上ない幸せだった
いつから欲張りになったんだろうか

九井「…そうだな…ありがとう…」
大切なことに気づかせてくれて、ありがとう

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