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1−1 前日。 ページ1

「風音、お前今金いくらある?」

休み時間、突然友人にそう話しかけられた。しかし、こう唐突に聞いてくるというのも、もう慣れたことである。

高校入学から仲良くしていて、そこそこ付き合いも長いので、この先の言葉もなんとなく予測できる。
だから、俺もいつものお決まりのセリフを返すのだ。

「…なに、また金ないの?”金貸してほしい”んだったら他をあたってほしいんだけど」

「そーそー!今めっちゃ金欠なんだよ!!あと二週間でモモちゃんのCD出るってゆーのにさぁ!!」

やはりそうだったか。トリセツが段々分かってきた気がして、ちょっといい気分になる。
が、お金をこいつに渡すわけにはいかない。

まあ貸したことなど一度もないのだが、今日だけは、絶対に貸してやるわけにはいかないんだ。

「貸さない。お前がドルオタってのはよく知ってるけど、お前も俺がどういうやつか知ってんだろ」

「まー、そうだけどよ…うーん…。…明日、えーっと、ソクバイカイ?があるんだっけ?それで金いっぱい必要なんだろ?」

「そう。だからどっちかっつーと今日は俺がお前に金借りたい気分」

そう軽口をたたいて、俺は席に戻った。





俺、滝村風音、17歳。いきなりだが、というかお察しの通り、俺は腐男子である。

BLが好きな女子、「腐女子」の逆バージョンだ。逆、というから百合を好きな男子を思い浮かべる人もいるかもしれないが、そうではない。俺は、「BLが」好きな高校二年生である。

そして、明日はオタクたちの聖域、即売会がある。

しかも、俺が今推しているジャンルのオンリーイベントだ。

行く以外の選択肢が、果たしてあるのだろうか!?

否!俺が明日すべきことは一択!

ありったけの金を持って、好きな絵師さんの薄い本をありったけ買うことである!!

明日は俺の「神様」である絵師さんも参加しているので、これは行かなければいけない。
でも、俺は界隈では珍しい腐男子だ。だから、イベントに参加することには多少の抵抗はある。でも、昔好きな絵師さんの新刊を通販でゲットできなかった経験から、なるべく現地で買うようにしているのだ。

…まあ、もちろん変な目で見られることは多々ある。でもそんなの、神本をゲットできる喜びに比べれば、安いもんだ。


「明日、無事に新刊ゲットできますように」

そう小さい声で願って、俺はノートをとる準備にかかった。

まだ、不安はあったけれど、それを気にしないようにして。

1−2 前日の夜。→



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作者名:くりゅー | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年11月22日 22時

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