あなたの望みは (ページ2)

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忍び寄る闇ページ2

「ただ今」
家の前で弘久と別れ、玄関戸をガタガタと開ける。扉を開けた瞬間視界に飛び込んでくるのは見事な細工の金物たち。少年の父の作品たちだ。少年の家には入ってすぐに広い土間があり、そこを工房代わりに普段から父が作業をしていた。しかし、そこに居るかと思っていた父の姿は無い。
家に虚しく響く声に首を傾げ、少年は拾ってきた薪を土間の一角へ積み上げた。荷物を片付け終え、再び家の中を見回すも父の気配は無い。不思議に思いながらも、少年は腕捲りをした。
「よし、じゃあ夕餉でも作るか。」
少年の父は料理上手だ。
その所以は少年の母が病弱な人だったことにある。母が生きていた頃、少年は幼く火を扱うことなど不可能であった。必然的に父が料理を作らねばならず、日々作り続けていくうちに父は自然と腕前を上げていった。それから母が亡くなり、少年が成長してからは分担して料理を作っている。
男が料理をすることなど恥ずべきことだと大人は言う。
しかし、母が頼ってくれることが何よりも嬉しかったという父にそのような意識はなく、ただ大事な人のためにしていたことに過ぎなかった。

米を炊く火加減を見ながら、ささやかな汁物も作る。品数こそ少ないが、米には山菜を混ぜて汁物には野菜が盛り沢山だ。食うものに困る事がない家に生まれただけ、少年は父に感謝していた。
父の職業は金具師であり、村がある地方では有数の腕利きである。物心ついた頃から見てきた少年にとっても神業のような父の作品には高値が付き、鍛冶屋をしている弘久の父とは昔から共に仕事をする仲である。そのような関係もあって弘久とは幼馴染なのだが、意外なことに弘久の父も少年の外見を忌避することはなかった。商売の関係で大きな街や都市に出向く彼にとっては異人の方がよっぽど恐ろしかったという。
『まるで天狗みたいで、冷や汗が止まらんかった。アレを見たから言えるがな、白斗は儂等と色が違うだけの、白蛇様に似たただの縁起ええ子さ。』
むしろ村に残る価値観に辟易としているようで、少年の父をかっている村の若い衆たちも賛同しているらしい。かつて母が生きていた頃に売っていた薬草で助けられた女性たちも、色味の違いによる忌避に疑問を抱いているという噂だ。

さて、今日の夕餉を作り終えたところで少年は窓越しに外を見た。もうとっくに日が暮れようとしている。
父を本格的に心配し始めた少年は、必要なものだけを手に取って家を飛び出した。

瞬間、彼の意識は失われた。