僕らの場所 (ページ1)

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雅side ページ1

ここは静かな森の中。
鳥の声と葉の擦れる音しか聞こえない。
僕以外には。

僕は人より遠くの音が聞こえる。
この森には「癒しの池」がある。

癒しの池は瞬く間に怪我や病気を治してくれるという言い伝えがある。

救いを求めて人間、動物が押し寄せる。
でもほとんどのものが池にたどり着くことなく死んでいく。

それが癒しの池が「最期の池」と呼ばれる所以である。

僕の家は池のすぐそばにある。
池の近くに住んでいて羨ましがられることも多いが実際は逆だ。

息絶えた人でいっぱいだから。
僕はそれをこの目で見ないといけないのだから。

ほらまたゆっくりと危なっかしい足音が聞こえてくる。

助けないのかって？
助けたい。
でも助けてはいけない決まりなのだ、この池の。
手を貸すと池は傷を癒してはくれない。

だから僕は見ていることしかできない。
ただ死んでいくのを。
それを片付けるのが僕の仕事。

こんな気味の悪い仕事しているせいで僕は友達が少ない。
それでも麓に住んでいる翔くんは山を登って遊びに来てくれる。

もちろん翔くんも決まりを守っている。

翔くんは賢くて、優しくて、いつも僕の心配をしてくれている。
体があまり強くない僕の心配、ご飯を食べているかの心配、楽しいことがあるかの心配、池に来る人に手を貸さないかの心配。

昨日も来てくれてたくさん笑って帰っていった。

夜、やけに町が騒がしかった。
怒声や泣き叫ぶ声、弓、銃声…。

危険を知らせる鐘では吸血鬼が来たと知らせている。
翔くんが心配。
しかし見に行くことはできない。
山を登る人と出会ってしまう。

明日の朝、山が静かになったら行くことにする。