30.1週間 ページ30
悟から、Aの事情を聞いてしまった。
縁談を持ち掛けられていると聞き居ても立っても居られなくなった僕は、悟から聞いた住所に来てしまった。
Aの父方の実家であるという、A家のお屋敷を見上げる。
想像の何倍も大きくて、思わず息を呑んだ。
勢いで来たはいいけれど、僕は相手にしてもらえないんじゃないだろうか。
でも、迷っている間にAが違う男の所に行ってしまっていたら…?
頭を悩ませていると、聞き慣れた声が耳に入った。
『…狗巻くん?』
お屋敷の門を見ると、そこには着物を着たAと、彼女の母親らしき女性の姿があった。
およそ1週間ぶりにAと会えた嬉しさとは裏腹に、胸に湧き上がるモヤモヤ。
あんな綺麗な姿で、どこの誰かと分からない男とお見合いをしていたのか。
そんな考えが頭を過ぎり、彼女に近付く一歩を踏み出せないでいた。
しかし、そんな僕の心の声は届いてしまっていたはずなのに、Aは満面の笑みで僕の方へ駆け寄って来てくれた。
着物で動きは制限され、下駄のような履き物は大きな音を立てている。
邪魔だったのか、靴は脱ぎ捨て飛び込んで来たAを、僕は慌てて抱き止めた。
『…会いたかったぁ…』
強く抱きしめられて、この綺麗な彼女とお見合いをしていた男への嫉妬は一気に冷めていく。
「…しゃけ」
僕も会いたかった。
そんな思いで彼女の体を抱きしめると、さらに強い力で抱きしめ返された。
久しぶりに彼女の体温を感じられて嬉しくなる反面、そんな姿で出てきて大丈夫なのか心配になる。
話し合いの途中だったのではないか、家の人のことは大丈夫なのか。
「高菜、明太子?」
尋ねてみると、心の声で聞きたいことを察してくれたのか、Aは微笑んだ。
『結婚の話はなくなったよ。…お祖母様達には内緒で出てきたから、早く戻らなきゃ』
その言葉に、僕は目を丸くする。
縁談を拒否することができたのか、“内緒で出てきた”と言うことは反対を押し切ってきたのか…
いろんな疑問が頭を巡る中、Aは笑って僕の手を取った。
『“ずっと一緒にいてね”って、言ったでしょう?私は狗巻くんと一緒がいい。…離れられない“呪い”を掛けたのは、狗巻くんだしね』
そう言ってまた微笑む彼女が愛おしくて、僕はもう一度彼女を抱きしめた。
たった1週間がこんなに長く感じたのは、これが初めてだった。
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saki - 棘くんの呪いが出てくるとは…!伏線回収(で合ってるかわかんないですが)素晴らしすぎます!神作品ありがとうございます! (11月4日 23時) (レス) @page31 id: 15ea9621b8 (このIDを非表示/違反報告)
白狼(プロフ) - 続きが凄い気になる。ネタを考えるのと投稿頑張ってください!応援してます! (2022年4月4日 0時) (レス) id: 62f0033d85 (このIDを非表示/違反報告)
緋波(プロフ) - ネイジェさん» コメントありがとうございます‼︎上手くお話がまとまらず苦戦していますが、楽しんでいただければ嬉しいです*これからもよろしくお願いします* (2022年1月19日 16時) (レス) id: 55d308068d (このIDを非表示/違反報告)
ネイジェ - 続き、続きが気になる・・・!とっても私の好みな作品です!神ですか!?神なんですか!?更新頑張って下さい!応援してます!!! (2022年1月18日 14時) (レス) @page29 id: 09b28cb614 (このIDを非表示/違反報告)
緋波(プロフ) - 姫宮 玲雅さん» コメントありがとうございます*ゆっくり頑張ります‼︎ (2022年1月16日 11時) (レス) id: 55d308068d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緋波 | 作成日時:2022年1月4日 15時