虎鶴の地 (ページ7)

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五の貢ページ7

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男の名を、虎珪(こけい)といった。

彼は寛の首都である蕭安(しょうあん)の生まれであるが、娜(だ)の国にて学者をしていたらしい。娜の学問所で教壇に立ったこともあり、旧娜王とも面識がある。

また爺さんに蕭安で世話になったことがあるらしく、寛を訪れた際には必ず爺さんの家へ立ち寄っていた。私が物心つかぬ時に会ったことがあるようだが、はっきり言って覚えていない。

そんなことはさておき、彼が何故このような辺境の村に訪れたのか。

璃の統一から五年。各地で度々起こる厄災。
それは南に行けば行くほど異常が見られるという。

南の璃はかつて八国一の肥沃な大地と豊かな河川に恵まれていた。そのため耕作量が多く、飢えるものなど一人もいなかったのだ。

だが昨年は違う。

雨の降らぬ日が続き、川は干上がり、干ばつで穀物は枯れ、元々暑さが厳しい気候であることも重なり熱病にかかるものも多かった。

その年は最も貧しいと言われる寛よりも死者が出た。

遜、崑は噴火や疫病にみまわれ、自国の対応で手一杯の状態。しかし璃の難民は留めなく流れてくる。南の三国は五年前と比べられぬほど荒れた。

農業国の璃、賢君の治めた地である遜、商業の中心であった崑。

雪山で一年の大半を暮らす私達には知らぬ情報だらけ。

そしてその厄災はついに最北端の国、寛へ。

南に比べて程度は軽いが僅かに採れた金銀銅が取れなくなった。心なしか昨年より積雪量も多い気がした。

南は備蓄を蓄える習慣がある……でも寛は……。

その日を生き抜くことだけに、人々は神経をすり減らす。備蓄ができるほどの実りはなく、このまま厄災が北へさらに降りかかるのであれば他国より先に滅ぶだろう。

それを憂い、この男、虎珪はこの地にやってきたのである。