虎鶴の地 (ページ10)

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八の貢ページ10

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しかしながら、爺さんと虎珪様は制止を促した。

「梨鶴、傷が治るまで寝ていなさい。お前が何をしようとしてるかくらい想像がつく。働かざるもの食うべからず、虎珪に手伝ってもらうから安心して寝るんだ」

「そうですよ、僕も元からそのつもりでしたし。せめて打撲の腫れが引くまで安静に。貴女が治れば共に下山するのですから」

爺さんは少し眉を下げたが、同意するかのように頷いた。

彼の突然の発言に殴られたかのような衝撃が走る。私がこの家を離れて下山する？しかも命の恩人とは言えこの軟弱そうな男と？……なんの冗談を言っているんだ。

「……私はここを離れるつもりはないし、第一爺さんは右足が不自由なのです。何を勝手に」

「ええ、ですから僕と二人です。宋至様と何年も前に約束したことですし、貴女が抵抗しても連れて行きます」

私の知らぬところで一体どんな約束をしたというのか。下山なんてする気はないし、爺さん一人にすることは……。考えただけでこの男が非道なように思えて仕方なかった。

なぜ片田舎の何もできぬ娘を連れて行く必要がある。なぜ……。

「誰が……誰が貴方となど下山しますか！！崖から落ちた私を救っていただいたことは深く感謝します。ですが国がどうなろうが、ここから出る気などありません！早く部屋から出て行って！！」

虎珪様も爺さんも表情一つ変えずに頷き、私の両腕を布団に仕舞わせ部屋から出ていった。まるで私が取り乱すことを始めから予想していたようだ。その事に対しても無性に腹が立ち、なぜ爺さんもそんな提案を受け入れるのか理解し難かった。

……誰なの。

爺さんも虎珪様もそして微睡みの中で垣間見た温かなものも。

私はただ飢えずに爺さんと暮らしていたいだけなのに。それを願うのはいけない事だというのか。

私は一体誰なんだ……。

無知すぎる自分に嫌気が指し、薄い綿入れには涙のシミが跡を残していた。