【恋うた】Disc 1 (ページ29)

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末っ子だから家では甘えん坊の薮が俺と一緒にいると、不思議に面倒見のいいお兄さんになる。

長男だから負けず嫌いで、妹に譲りなさいと常に諭されてるから我慢しがちな俺は、薮といる時だけわがままを言う。

薮は、何でも受け止めてくれる。

困ったような、でもとても優しいその笑顔で、『しょうがないな』って。

いつ恒例になったかはもう思い出せない、放課後のコンビニへの寄り道。

小学生の頃、お小遣い100円しか持たされてなく、好きなお菓子を買えないことがあった。

明日まで我慢すればいいかって、先にベンチに座って待った俺を薮が探しに来て、事情を聞いたら『貸して』って、手のひらに握ってた百円玉を取り、俺が買いたかったのと自分が選んだものを一緒にレジに持って行った。

『僕が選んだのは100円行かないから、お会計一緒にすれば足りるよ』

『なんで…それ、宏ちゃんのおこづかい…』

『だいじょうぶだよ！僕は慧ちゃんといっしょにお菓子食べたいんだから！』

『でも…』

どうしても納得できなくて俯いた俺を見て、しょうがないな…と呟き、渡したばかりの小さい紙箱からチョコボールを一粒だけ取り出して、

『じゃあ僕が払った分ちょうだい！これでいいでしょ？』って。

顔を上げたら、目の前に薮の笑顔がいつもそこにあった。

考えてみればその時からずっと好きだったかもしれない。

「…あっ、」

「ん？」

「髪、アイスついてる」

「ええ～うそ、どこ？…てか取って」

「も～手がかかるやつだなお前…」
ブツブツ言いながらも自分のハンカチで汚れた髪を拭いてくれた。

ゴツゴツしてて少し焼けてるその手も、好き。

「いい加減前髪切ろよ、長すぎるって」

「…嫌だ」

「何でだよ～せっかく目きれいだしもったいないよ…」

無自覚に人誑しなことを口にしてしまうところも、やめて欲しいけど、好き。

「…なに口説いてんだよ、うっぜぇ」

「なになに照れてんの？かわいいな慧ちゃんは～」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら俺のほっぺを突いてる。

「キモっ！触んな！」

ただの悪ふざけなのに。

それだけなのに、また胸に微かな痛みが襲ってきた。

そして、その痛みとは比べ物にならない罪悪感に、溺れそうになる。

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