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「そんなに美味いの？それ」
「おいしいに決まってるじゃん」
「ふ〜ん…」
「……食べたいならはっきり言えよ」
「なんだよその言い方！言っとくけど7円くらい払ったかんな！」
「――食べるの？食べないの？どっち？」
アイスをすくう手を止めてもう一度聞いたら、
「…払った分ちょうだいよ」
って、またふにゃっと笑って。
食べかけのアイスカップを差し出したら、それを受け取らないまま口が“あ〜”って開いた。
…そんなところ、ほんとずるい。
「なんでお前にあーんとかしなきゃならねえんだよ…」
――気持ちと裏腹な言葉を許して。
「…ッ！！うまっ！明日俺これ買うわ〜」
――子供みたいな喜び方をしてる薮を見て、俺は何回も心の中で謝っていた。
素直になれなくてごめん。
不純な思いを抱いてごめんね。
薮にとっては俺なんか、ただの親友なのに。
純粋な感情を裏切ってごめんなさい。
でも、もう止まらない。
だって、だってさ…
子供の頃俺より小さくて、体も頑丈ではなかったのに、女顔のせいなのかいつもいじめられっ子だった俺をかばってくれた薮を、
自分が人気者なのに、運動が一切できなくて地味で勉強だけがお友達な俺を見捨てなかった薮を、
“カンニングに協力しなきゃ殴る”と、クラスの悪いやつに脅されて怯えた俺のために、『やんのなら俺にかかってこい！伊野尾に触れるな！』って、人生初めてケンカをした薮を。
停学処分が下されて、その名残で薮は推薦入試の資格を失った。
『俺のせいで…薮が……ご、ごめんなさい…』
とっくに泣き虫を卒業したはずなのに、久しぶりに大泣きして、しゃくりあげながら必死に謝っていた。
宥めても俺はなかなか泣き止まなかったから、薮がため息をつき、そしてそっと俺を抱きしめてくれた。
『俺は、伊野尾を守れてよかった。推薦なんてどうでもいい、べつに一般入試でも余裕で受かるし…絶対、伊野尾と一緒の高校に行くから』
『停学って3日だけだから、すぐ戻るよ。いい子して待ってろ、な？』
いつの間にか俺の身長を抜いてしまって、サッカーで鍛えた体もしっかりしてきた薮のハグは、すご温かくて、心地よかった。
何とか頷いた俺に、いつものクシャッとした笑顔を見せて、“ありがとう”って言ってくれた薮を――
――そんな薮を、好きにならないなんて、できるわけないじゃん。
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作者名：yoku | 作成日時：2019年9月16日 0時
