【恋うた】Disc 1 (ページ35)

今日:4 hit、昨日:21 hit、合計:62,231 hit

9 ページ35

.

びっくりした後のハラハラ感も痛みもちょっとずつ和らいできて、なんだかぼーとしてたら、光のベースが目に入って、

「あ、」

「ん？伊野尾どしたの？」

「光、部室行くでしょ…？」

「ああーそうだった！すごいハプニングで忘れかけたわ！」椅子から飛び上がった光はカバンとベースを掴んだ。「えーとどこ行けば…」

「ここから出て…「バカかお前！座ってろ！」
窓際に行こうと立ち上がったけど、今度は薮に阻止された。

「案内なら俺やるから。軽音に届けばいいっしょ？」

「…うん」

すごっ。俺と光、軽音のけの字も言ってないのに。
ああ…楽器ケースでわかったのか…頭の回転どんだけ速いの？

「ついでに荷物持ってくるから。戻ったら帰ろうな」

「へ？でも部活まだ…」

「1日ぐらい早退してだいじょうぶだって」ポンポンと俺の頭を撫でて、「戻るまでじっとしてろよ？」

座ってる俺の目線と合わせるために少し前屈みしてる薮。見慣れた笑顔たけど、距離の近さに気づいたら不意にも胸が高鳴った。

「…わかった」

「うん、いい子」
薮はクシャッと笑って、また頭を撫でてくれた。

帰り道、久しぶりに自転車に乗せてくれた。
普通に歩けるし重いからいいって言ったけど、お前なんて1人や2人軽いもんだからって言い返された。
いつもの寄り道も、早く帰って休んだほうがいいってキャンセルされた。

二人乗り、小学校ぶりなんじゃない…？

あんなにちっちゃかった薮の背中も、まだ全然細いけどすっかり逞しくなってきた。

「…ごめんな、伊野尾」
一心不乱にペダルを漕いでる薮が沈黙を破る言葉は、意味の捉えない謝りだった。

「何が？」

「ケガさせたのが」

「語弊ありすぎ。別に薮がさせたんじゃないし」

「うん。でも…ごめん。」

顔は見えないけど、声だけでも明らかにしゅんとしてるのが分かる。

「…薮が謝ることじゃないよ。俺の不注意もあるし…光と喋るの夢中だったから周り見てなかった」

「そうか」薮は何かを思い出したようで、ふふって笑った。「良かったな、友達できて。珍しいじゃん」

「何が？」

「伊野尾が転校生を案内するのが」

「…たまたま迷子に会っただけだから。」

「はいはい、たまたまね。」

「…なんか言い方ムカつく」

「何でだよ～俺は嬉しいよ。お前クラスの人全然絡まないから心配してたんだぞ」

心配…？薮が？俺のことを？

.