Sweets Holic

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「はい！いいよ、目、開けて」

玉森さんが言ってくれたから、目をそうっと開ける。

背中まであった髪が、顎のラインまで短くなってる。

でも前髪は長めだからちょっと大人っぽい。

鏡越しに玉森さんがにこ、って笑う。

「うん、いいね。似合ってる」

「こんな短くしたの学生の時以来かも…首筋すーすーする」

「ふふ。頭軽いでしょ？」

頭を振ってみる。

「軽いー！」

なんだかすごくすっきりした。

失恋した時髪を切るってやっぱり正解なんだ。

「お仕事大丈夫なら、今度カラーもしにおいでよ。
もうすぐ春だし、もう少し明るい色も似合うと思うな」

道具を丁寧に片付けながら、玉森さんが言う。

「はい。また来ますね」

「あ、コートまだ乾いてないね」

そう言うと、バックヤードに行ってまたすぐ戻ってきた。

「これ、俺が店においてるパーカー。もしよかったら着て行きなよ」

「いえいえ、そこまでしてもらうわけにいきません」

「風邪ひいちゃうよ。いいから着て行きなって」

「じゃあ…お言葉に甘えてお借りします。近々またカラーしに来るので、その時にお返しします」

「うん、そうして」


「あの、今日の分本当にお支払いしますよ。ただでさえ営業時間外なのに」

「だから内緒なの。もうレジ閉めてるし、本部の人に見つかったら怒られちゃうから」

「すみません」

「いいのいいの」

「……なんだか元気出ました。来週ちゃんと笑顔で会社行けそうです」

私がそう言うと、玉森さんは頷いて優しく笑った。

お店の出口まで送ってくれる。

雨は止んで、雲の切間から星がのぞいてた。

「『SEVEN WISHES』って言うんですか？お店の名前」

「そう。ここで髪切ったら7つの願いが叶うんだよ」

「7つも？それは嬉しい……」

半信半疑で笑ってる私を見て、玉森さんもにっこり笑う。


「俺が叶えてあげる」


その時。

何の根拠もないけど。

なんとなく、本当に叶うような気がした。


「じゃあ、また来ます」

ぺこり、とお辞儀をして歩き出そうとすると。

「Aちゃん」

玉森さんの声が背中で聞こえて、振り返った。



「Aちゃんは。ちゃんと女の子だよ」



失恋した私への単なる慰めだとしても。

ただの社交辞令だとしても。

その時の私にはその言葉がものすごく嬉しかった。





玉森さんのパーカーはぶかぶかだったけど。


すごく暖かいな、と思った。

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