Sweets Holic

35. -side.T- ページ35

「たま、なんか今日いい顔してる」

Aちゃんちで朝ご飯を食べて出勤したあと、「SEVEN WISHES」で開店の準備をしていると、宮っちが顔をのぞきこんで来た。

「何かいいことあった？」

「別に」

「嘘だー」

「いいから早く仕事しろよ」

何気に鋭い宮っちから目をそらして、パソコンで今日の予約の確認をする。

Aちゃんのことは。

いい子だと思っていたし、仕事や恋に一生懸命なところを応援したいなって思ってた。

ほっとけなくてかまいたくなるっていうか。

それだけだと思ってたんだ、けど。


「果穂ちゃん？」

宮っちが不意に果穂の名前を出したから、パソコンの予約表から顔を上げる。

「果穂？」

「昨日店にたま探して来たんだ。だから果穂ちゃんと何かあってそんないい顔になったのかなって」

「果穂には会ったけど。別になんもないし」

「そうなの？じゃあ何でご機嫌？」

「だから別にご機嫌じゃない」


昨日。

あのままひとりになってたら。

昔のこと思い出したりして、暗いとこにずるずる落ちていってたかもしれないって思う。

だけど。

Aちゃんがいてくれた。

Aちゃんが全部受け止めてくれて、過去の俺も今の俺も抱きしめてくれたような気がしてた。


「じゃあ、Aちゃん？」

また微妙に鋭いとこついてくる宮っち。

「じゃあって何だよ」

「お？当たり？」

「早く仕事しろって」


浅い付き合いしかしないって頑なに決めてたわけじゃない。

でも果穂と別れてから、そういう付き合い方の方が楽だったし、自分にも合ってると思ってた。

誰か一人を大事にしてると、その人はまたいなくなるかもしれない。

だったら適度な「好き」で、たくさん「好き」で、いた方がいいじゃんって。


「ねー、たま。いつまでも『もう恋なんてしない』とか昔の歌詞みたいなことやってると大事なものなくしちゃうよ？」


「だからその鋭いんだかそうじゃないんだかわかんないの、やめろって」

「お、当たらずと言えど遠からず」

「はい、開店5分前でーす」

宮っちを無視して、スタッフに声をかける。


ふと、Aちゃんのあったかい手のひらを思い出して。

ゆるく口角が上がったことに、自分でも気づいた。

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