Sweets Holic

34. ページ34

翌朝目を覚ますと、玉森さんが私にしがみつくみたいにして眠ってた。

なんだかたまらない気持ちになって頭をなでる。

「……きもちい」

びっくりして手を止める。

「起きてたんですか？」

「うん」

「コーヒー飲みますか？入れますね」

「うん。でももうちょっとだけ、こうしてたいんだけど」

「…いいですよ」

そう言って、もう一度玉森さんの髪を静かになでた。

一つだけはっきりわかっていることがあった。

私は昨日の夜のことをちっとも後悔してない。

それどころか、不思議と満たされたような気持ちになっていた。


「ね、Aちゃんの手のひら何か出てない？」

「はい？」

玉森さんが目を閉じたまま、不意にそんなことを言うから、思わず間抜けな声を出して自分の手のひらを見てみる。

「何も出てませんけど」

「じゃあなんで。こんなあったかい気持ちになんの？」

冗談を言っているのかと思ったけど、ゆっくり目をひらいた玉森さんの顔はいたって真剣だった。

急に恥ずかしくなって手をひっこめると、がばって起きて、ベッドから出る。

「コーヒー入れますね」

「えー」

ちょっと不満そうに口をとがらせている玉森さんは、年上なはずなのに小さな子どもみたい。


コーヒーメーカーをセットして、朝ごはんも何か作ろうかと冷蔵庫を開けた。

「目玉焼きかスクランブルエッグどっちがいいですか？」

冷蔵庫をのぞいたまま声をかけた。

「目玉焼き！」

思ったより近くで声がしたから振り向くと、上半身裸のままの玉森さんがすぐそこに立っていて。

後ろから、ふわって抱きしめられた。

「目玉焼きは半熟が好きで、コーヒーはミルクたっぷりで砂糖なしのカフェオレが好き。覚えてね」

冷蔵庫から取り出した卵を落としそうになる。


あああ。

もうだめだ。

6人目でもいいんじゃないかって心のどこかで思ってしまってる。


きっと他の5人もそうなんだろう。

今だけでもいいってそんな気持ちになってしまう。


向かいあって食卓に座って、にこにこ嬉しそうに目玉焼きを食べてカフェオレを飲む玉森さんを見ながら。

きっとこれから。

私は呼ばれたら飛んで行くんだろうな、と思う。


そして、玉森さんが目玉焼きは半熟が好きで、コーヒーはミルクたっぷり砂糖なしのカフェオレが好きなことを。

たぶんもう忘れない。

35. -side.T-→←33.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す