【完結】残酷なまでに美しい彼女。2【青×黄】

Letter31 ページ31

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「日差しも柔らかくなり、春の陽気となりそうです」

洗濯物を干しながらラジオに耳を傾ける。

スマホやテレビが主流の現代に敢えてラジオを聞くのが好き。


「桜の開花予想！桜前線は……」


テンション高い声が部屋に響く。

仕事に出かけたるぅちゃんを見送り、ベランダに出ているわけだが。


…もうすぐ洗濯物干しすら出来なくなっちゃうね。

あれから病院にはまた行かない日々が続いているけど
それを心配した母親からは毎日のように電話がかかってくる。


今も例外ではない。


のどかなラジオを遮り、電話特有の凄まじい音が鳴る。



言うまでもない 母だ。

「もうすぐ桜が咲くみたいだけどくれぐれも外には」

『うん、分かってるよ。今日が最後の外出になるかな』

「2ヶ月くらい我慢するだけだから、大丈夫よね」


ふわっと風が春を薫らす。
私の髪が撫でられる。


『…ありがとうね、お母さん。大好き』


私の今の言葉の意味を理解しない母親は

"なにいきなり照れくさい事言ってんのよ"

と茶化すけど。


『お母さん。産んでくれてありがとう』


もう一度念を押してから電話を切った。


泣きそう。

いや、もう泣いてる。

『私もう生きられないんだよ』


この電話は私にとって生涯最後の母との会話。


着々と起こる身の変化。

貧血による立ちくらみ、目眩。
頭痛、吐き気、腰痛、腹痛。
手の痺れ、腫れ。

もう私は末期症状なのだ。


『るぅちゃんともお別れかぁ！』

仏壇見に行こうかな、お墓でも決めとく？

私はまた、日記のような遺書を書く。

これは私の生きた証になる。

今も丁寧にペンを走らす。


愛する人へ

愛した人へ



「ままー！見てみて！ふくらんでるよ！つぼみ？」


可愛らしい男の子の声が外から聞こえ、ふと窓を覗く。


『いいなぁ。私も』


────誰かのお母さんに、



なりたかったな。






「僕、さくらだいすき！」



────！



私はその男の子の声に弾かれるように走った。


「A、お花見楽しみだね」

「僕、桜が花の中で1番好きなんだ」

「桜ってAみたいで可愛いと思いません？」

「ほら見て！満開だよ…！」



『……私だって 本当は桜、大好きだよ！』


ただひたすらに、街をかけた。

何も持たずに、桜並木の下を、人目を気にすることなく本能のまま、思いっきり。


何忘れてんだよ私。

『この世界のものは、美しいものほど残酷なの』


春風は、私を乗せた。


どこまでも、どこまでも。

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