38話 ページ38
解放されてどこかスースーする足首と変わらず手首にあるリストバンド。
リストバンドに触れているとやはり安心感があって、たぶん今の俺はこれのおかげで正気を保ててるんだと思う。
じゃなきゃもうとっくにSub Dropして過呼吸を起こしているはずだし。
「じゃあまずはとりあえず、kneel」
極度に震える体と落ち着かない心臓。
普段より重く感じる体に鞭打ってゆっくりkneelの姿勢をとった。
「遅すぎるんだよ、もっと早くしろ」
「ご、ごめんなさい…」
失敗した。
褒めてもらえないだけでこんなに苦しいんだ……
目の前のDomを満足させられなかった、言うことを正しく聞けなかったという事実で俺の中の弱い部分がどんどん大きくなってくる。
Dropする寸前のところまで行ってそれでもお守り代わりのリストバンドで無理矢理抑えて。
それを繰り返して荒くなった呼吸が整わないまま無情にも次のcommandが告げられた。
「look、俺らをしっかり見ろ」
それは10人前後のGlareを真正面から受け止めることと同義だ。
「間違えてもDropして気絶するなよ?」
「っ…あ、ぁ……!」
頭がおかしくなる…!
とてもじゃないけどまともじゃいられない。
過呼吸気味になってきた呼吸を無理矢理元に戻そうとさらに強くリストバンドを握った。
いつの間にか俺の周りにはたくさんのカメラが置かれていてその中でも味澤くんが持つスマホを直視するように言われた。
「目瞑るんじゃねえぞ」
「っ、はい……」
視界が歪んで何も見えなくなるほど溢れ出る涙と漏れる嗚咽に嫌気がさす。
俺は弱い。
結局1人じゃ何もできないんだ。
こんなとき、先輩ならどうするんだろう。
逃げるための作戦とかすぐに考えちゃうんだろうな。
俺もやっぱりもっと勉強しとけばよかった。
先輩みたいに頭よくなりたかったな。
なんでこんなときに限って俺は先輩のことばかり思い出すんだろう。
『山田、…』
先輩……助けてよ、先輩。
嫌な汗と涙でびしょ濡れになったリストバンドはそれでも俺の心を落ち着かせてくれた。
そうだ、違うことを考えていればいいんだ。
学校での楽しいこと、部活のこと、父さんと母さんのこと、圭人の家のこと、大ちゃんのこと、圭人のこと、そして…先輩のこと。
「…お前何よそ見してんの?」
ハッとしたときにはもう遅い。
10歳近く年上に見える男の人に思い切り蹴られて俺は勢いよく床に肩を打ち付けた。
やらかした。
また怒らせてしまった。
命令に、従えなかった。
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作者名:るち | 作成日時:2021年1月12日 11時