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???【縺ッ縺ッ縺ョ縺舌≧縺槭≧】 ページ8

「おかあさん」


私には父親という存在は居なかった。
籍を入れる前、私が生まれる前に蒸発したのだと知ったのは、ずっと後の話だった。
幼い頃、私の世界は狭いアパートの一室と、そこに居る母親だけだった。


「おかーさん」


記憶の中の母はいつも疲れていた。
無理も無い。十代で身籠った母は頼れる人も居らずたった一人で子供を育てていたのだから。
幼い子供を抱えながら働ける場所なんて限られていた。その限られた場所さえも社員をただの使い捨ての駒としか思っていないような所だった。
それでも援助を受けつつも生活が困窮している現状では、お金が得られなければ母娘共々餓死してしまう。


「ふざけんな、ふざけんなよ……」


記憶の中の母はいつも酒に逃げていた。
缶ビールを何缶も開けて、狭い部屋はじんわりとした酒の臭いが充満していた。
綺麗なはずの髪の毛をぼさぼさにして目に涙を溜めているのを部屋の隅から眺めていた。
時々鋭い言葉や手や足が飛んできても、仕方がないと割り切っていた。


「あいつも、あいつも、皆みんな私を裏切って……」


記憶の中の母は婚活が上手くいっていなかった。
ただでさえ子供が居るというのに、何故か母に近づく男は何股もしていたり借金を背負わせようとしてきたりとクズ男ばかりだった。
それでも、母は幸せを求めて頑張っていた。


「……ねえ、A、いらっしゃい」


記憶の中の母は完全に酔うと決まって私を手招いた。
素直に従い、顔が赤くなった母の元へ行く。
母は私の頭を膝に乗せると、頬を緩ませ優し気な手付きで頭を撫でてくれた。


「……ふふ、かあわいい。だあいすきよ」


熱に浮かされたような声。
私はそれを、じっと目を閉じて受け入れていた。




「ねえ、A?女の人にはねぇ、優しくしなきゃいけないの。
相手が赤ちゃんでも、お婆ちゃんでも、女の人には敬意を持って接するのよ?」


この日の事は、よく覚えている。
ある日、甘ったるいあの声で母は私に言った。
辺りには珍しく瓶が転がっていた日で、時計は十二を回っていた。


「そしてねぇ、男なんてどうでも良いの。
男はみーんなクズばかり。男なんてね、所詮汚い物の塊。
ねぇ、A?男は信用しちゃダメよ?」


おへんじは?と呂律の回っていない口調で言いながら私を起こした。
母のどろどろとした瞳がこちらをじっと見ていた。


「……うん」


頷くと母は顔を綻ばせ、きつく私を抱きしめた。
酒の匂いが鼻を突いた。

137【ちゃぶ台が倒れる勢いだった】→←136【肖像に罰印を付ける】



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アラモード(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (3月15日 19時) (レス) @page13 id: f9e6be770b (このIDを非表示/違反報告)
りんご飴(プロフ) - うたねのどあさん» わ〜いつもありがとうございます〜!!私も書いていて本当に楽しいです!わりとこの後手探りなので頑張りますね……! (1月18日 23時) (レス) @page10 id: 2b38128ef8 (このIDを非表示/違反報告)
うたねのどあ(プロフ) - 夢主ちゃんがメイン…!!お話の物語、展開とか本当に好きすぎます!!この先本当に楽しみです!!更新楽しみにお待ちしております!! (1月17日 23時) (レス) @page10 id: d12e45b1fd (このIDを非表示/違反報告)
りんご飴(プロフ) - 星月ぱろあ@ろあ民🐈‍⬛さん» ありがとうございます!そこそこの長さなのに凄いです……!これからも頑張ります! (1月2日 0時) (レス) id: 2b38128ef8 (このIDを非表示/違反報告)
星月ぱろあ@ろあ民🐈‍⬛ - 一気見しました。更新頑張ってください。 (12月31日 21時) (レス) @page5 id: f169115c31 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りんご飴 | 作成日時:2023年12月24日 21時

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