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四十五通目 ページ45

その日の夜、Aは自室でただひたすらに白紙の便箋を見つめ、右手には一向に進まないペンを握っていた。
 その机上には、今まで彼から貰った手紙たちが彼女によって広げられ、その一番上に置かれていたのは、今日届いたばかりの、あの心を乱した手紙であった。

 どう返事を書くべきか、どんな返事を書きたいのか。彼に何を言うべきか、何を言いたいのか。Aの頭の中には、自問自答が渦巻くばかりで、何も答えが纏まらない。白紙のまま、もう一時間は経過していた。

 今回の彼の手紙がいつもの和やかな手紙ではないというのは、明らかな事実であった。この返事はとても重要になること、そして返す言葉で今後の彼との関係が大きく変わることも、目に見えて分かっていた。だからこそ、これ程までに悩み、そして書けないのだ。

 しかし悩みの中に居ても、Aには確かなことが二つあった。一つは、水橋に言われた"幸せ"の理由であって、それは間違いなくペンギンという存在が出来たからである、ということ。二つ目は、もう彼という存在が、自分にとって、代わりの利かない大切な存在になっているということ。


 Aはついにペンを滑らせ始めた。出すべき答えは、自分が認めるべき答えであって、本当はもう既に一つに絞られている。その答えは、まさに今、胸の奥でしっかりと鳴り響いていた。そうして書き上げたのは、心が張り裂けそうなくらいの緊張を、便箋と共に封筒へと詰め込んだ決心の返事であった。



――――――――――――――――――――

 ペンギンさんへ

 今回のお返事だけは、また前のように、敬語で書きます。許して下さい。

 本のこと、好きな人のこと、今あなたに伝えたいこと、お話ししたいことが沢山あります。でも、会って話したいのです。

 それと私、あなたが誰なのか、分かる気がします。

 会って欲しいです。会ってくれませんか?

 Aより

――――――――――――――――――――



 日付が変わり、朝、震える指先で秘密の郵便受けに託した。

 そしてもう一つAにはするべきことがあり、昼休みの今、大事な友達と向き合っていた。

「和菜に聞いて欲しいことがあるの」

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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時

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