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三十八通目 ページ38

これからどうすれば良いのだろう。Aの歩みは徐々にスピードを失くし、ついに止まってしまった。一度教室に戻ろうかとも考えたけれど、そうしたところでかき乱された胸の内が収まらないことは分かりきっていたので、やはり下駄箱への方向へ足を動かすことにした。

 手紙の彼から今まで形に出来ない沢山のものを貰ったが、貰うだけで何も返せていないとAは思う。でも自分の返すべきものの中で一つだけ確かなものがある。この気持ちに整理を付けて、その結果がどうであっても誠意ある返事を、彼と会ってしっかり目を見て贈ることである。

 ため息とはこんなに重いものだったのか、と改めてそんなことに驚くくらい思い詰めた息が、彼女の唇から吐き出される。確かに芽生えている今は不完全な気持ちを、まだ"それ"とは認められない。認めたいのか認めたくないのかも分からない。

 靴箱に手を掛ける。そこでAはふと思う。そう言えば、手紙の彼との始まりはここだった、と。あの時は動揺と悲しみで崩れそうだったけれど、思えばそこからずっとペンギンに支えられていたと気付く。途端に熱くなる胸と、昂る何かに押されて滲む視界。

 靴を持ったまま立ち尽くすAの元に、水橋が偶然歩いて来た。彼女はAの姿を見て、ぎょっと目を見開き、戸惑いながら呼びかける。

「Aさん? あ、っと、大丈夫?」

 名前を呼ばれて初めて我に返ったAは、自分の頬に伝う冷たいものを自覚した。水橋の困惑した表情も相まって、慌てて手で拭いながら何か言葉を返そうと探すが見つからない。

「あ……えっと……」

 そう焦る彼女に対し、水橋はそれ以上何も聞かずに自身も靴箱に手を掛け出した。そして軽く微笑むとこんなことを聞いた。

「Aさんって部活やってなかったっけ」

「うん。何か輪の中に入るのが苦手で」

 突然の話題にAは意表を突かれたが、水橋の微笑みに吸い込まれるように答えを口にしていた。彼女はそこに居るだけで相手を安心させる、木漏れ日のような不思議な力を持っていた。和菜とは違う癒しをAは感じ取った。

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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時

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