三十三通目 ページ33
Aの胸が緊迫した忙しい鼓動を打ち付ける。
総士の居るのは健吾の席で、それは窓側の一番後ろだ。彼女の位置からは、教室の内の生徒の隙間から辛うじて彼ら二人の姿が見え隠れする程度である。つまりよく見えない。そして、声もさっきたまたま総士の声が大きかっただけで、会話は全くもって聞こえない。
「もしかして、もしかすると」という疑念がAの頭の中で止まらない。ついこの間、ペンギンに本を貸した。それは間違うことなく総士の好きな本であるはずだ。このタイミングで、題名は不確かだが健吾が総士の好きな本を読んでいる。Aはどうしても単なる偶然で片付けられそうになかった。
ペンギンの正体が健吾であったなら、と考えると辻褄がぴったり合ってしまう。
手紙の内容と健吾について知っていることとで合致するのは、勉強も得意そうだけれどそれより運動が得意、体育祭で午前中の種目に出ていた、クラスメイトだからと彼のレースを観戦していた時に目が合った気がした。
それから、文通が始まったくらいから健吾との関りが少しだけ増えたのも気にかかる。隣の席であったから、というくらいにしか思わなかったが、今思い出せば最初に声を掛けたのは彼で、それが無ければ何の関わりの生まれなったと気付く。
しかしそれだけでは間接的な証拠に過ぎない。Aは確実性のある情報が欲しくて何度か彼らの方を盗み見る。けれど健吾は総士が来たことで本を閉じてしまったようで、手のひらの下敷きになっており、余計に見づらくなった。何とか会話の断片だけでも聞こえないものかと、懸命に耳をそばだてる。
すると彼女の異変に気付いた和菜が「どうしたの？ さっきから難しい顔してる。福森くん見る時にそんな顔しないのに」と、Aの意識を戻した。
「え？ 難しい顔？」
「うん、目も鋭かったし、何か探ってる感じ。気がかりでもある？」
「ううん、そういう訳じゃないよ。総士くん、この教室に来るの珍しくない？」
彼女は健吾を探っていたのを誤魔化して、少し前の疑問を代わりに答えると、和菜は呆れたような顔で「ああ……そうかも」とだけ言った。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
