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三十一通目 ページ31

Aは、前回ペンギンから届いた手紙を読んでからというもの、考え事と憂鬱と軽い後悔との中に埋もれていた。

『君と目が合ったよ。だから、僕は頑張れた。ありがとう』

 いつだったのだろうか、そう考える。でもAはその瞬間を何度考えても思い出すことができず、自分に失望する。彼からの"ありがとう"に罪悪感を刺激されて痛かった。

『僕の姿は、いずれ分かるから』

 いずれとは、いつになるのか。彼と少しずつ距離が近付くにつれ、早くその姿に出会いたいと思ってしまう。それは我儘なのだろうか。
 図書館で待ち伏せなどというずるい考えが浮かんだことも何度かある。でも出来なかった。それは彼に対する大きな裏切りであるように思ったし、何だかバレてもバレなくても嫌われてしまいそうで怖かった。でも、もししてしまえば彼との繋がりが跡形も無く消えてしまいそうなのが、何よりも怖かった。


 そして、最後にもう一つ。

『好きな本は何?』

 これが一番悩ましく、加えて他とは違い胸を重く、そして苦しくさせた一言だった。

 好きな本、この話題は彼女自身も理由は違えど彼と同じく避けてきた話題だった。いつか彼から本に関して聞かれたらどうしよう、と困惑していたのも事実だ。ただ、好きなものの話題の交換はもう終わったかのように見えていたので、この問いが来ることはないなだろうと最近は安心していた。
 しかし何故かそんな時になって突然投げかけられてしまったのだ。


 返事を途中まで書いた後、Aは丸二日迷った挙句、総士と初めて出会った日に手に取ったあの本を答えとして便箋の最後にしたためた。そして秘密の郵便受けに本も一緒に入れた。


 読書家の彼女にとって、好きな本なら他にも沢山あるはずだったし、それらを答えとして選ぶこともできた。けれど、好きな本は何かと聞かれて真っ先に心に現れたのはただその一冊だけであった。それ以外を答えれば、嘘つきになってしまうと思った。

 結局心に強く今も刻まれている想いは総士である。無意識にそれを証明したようで、ずきずきと胸の傷が音をたてた。

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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時

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