四通目 ページ4
二階の廊下を階段から右に曲がって進み、三部屋あるうちの一番奥がAの部屋である。
Aは勢いよくドアを開けて自室に入り、いつになく乱暴にドアを閉めるとベッドに急いで上がった。その上で壁にもたれて膝を抱えて座った。何か落ち込むといつもこの体制をとるのが彼女の癖である。
じわじわと目尻が涙で濡れて、情けない声まで出てくる。目に焼き付いて離れない光景と突然の兄への嫉妬、こんな風にひねくれている自分が嫌になった。
肩にかけたままだった鞄は、Aの腕から滑り落ちて床に投げ出されていた。帰り道に急いだせいか、鞄のチャックが開いたままになっていて、中身まで散らばってしまった。
「おーい、入るぞ」
Aのか弱い泣き声以外何もない部屋に、ノックの音が響く。
ドアの向こうから聞こえる兄の声に、Aは返事をしなかった。入らないで、と拒否することも出来たはずなのに、八つ当たりしてしまった罪悪感とやっぱり兄を求める寂しさで言えなかった。
芳孝は静かに部屋に入り、ベッドの上のAと向かい合うよう床に腰を下ろした。
「何かあったんだろ。 お兄ちゃんに話してみ?」
Aのことなら何でも分かるらしい芳孝は、彼女が話さないだろうことも、内に秘める出来事も、大体想像が付くようであった。であるから、妹の泣き声に数回頷きこう語った。
「辛かったんだな。でもまぁ、お前にはもっとすげぇ良い奴が現れるって。兄ちゃんが保証してやるよ。だから自信持って気楽に居ろよ」
Aは言わずとも知られた恥ずかしさとそんな兄への憎らしさで、顔を膝に埋めた。しかしこうした態度を取りながらも、素直になれないだけで本当は分かってもらえて嬉しい気持ちが大きかった。
「とりあえず飯食いに降りてこい、な」
大きくて骨っぽい兄の手が頭に触れて、さらりと撫でられる。彼はいつもAに優しかった。その温かさに彼女はいつも守られていた。
兄が部屋から出た音を聞いた後、Aは顔を上げた。涙で濡れた頬を両手で拭いて、おもむろにベットから降りた。
そして床に散らかしてしまったものを拾い集める時、漸く封筒の存在を再度認識したのだ。そっと拾い上げ、その場でじっと両手の間にある水色のそれを見つめた。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時