十一通目 ページ11
教室で一人項垂れて机にべったり伏せていると、誰かの足音が耳に響いた。徐々に大きく鳴る音を聞く限り、廊下を歩いていてその内この教室の前を通り過ぎるのだろう。机の上の顔を隠すように窓の方へ向ける。
でも窓枠の景色というものは、今のAにとってまだ辛かった。先週のことを思い出してしまう。情けないと思いながらも涙が薄く瞳を覆った。
一方で足音は近くなり続けた。もうそろそろ遠ざかる頃だろうと思う頃、予想に反してそれは廊下の無機質なものから教室の木の柔らかい音に変わった。
足音は一人分しかないし、きっと誰かが忘れ物を取りに来たのだろう。
Aは内心で、早く去ってくれ、と誰だか分からないクラスメイトを疎ましく思った。
けれどその人はどんどん近づいてくる。そして何というタイミングの悪さなのか、その人物はAの隣の席の健吾であった。しかも彼は、どういう訳か話しかけてきたのだ。
「Aさん？ 気分悪いの？」
Aはこの男子と四月から今まで一か月間くらい隣の席だが、何か話をする仲ではなかった。和菜は彼と去年もクラスが同じで、他にもいくつか共通する何かがあったとかで仲が良いのだが、だからと言って親友からの繋がりでAが健吾と仲良くなることはなかった。
それもそのはず、Aは必要がない限り新しい人とは極力関わらない。和菜だけが心を奥まで曝け出せた唯一の相手だった。何かトラウマがあるわけでも、家庭環境に原因があるわけでもない。元々のAの性格だっただけで、本人だってそれを苦に思っていなかった。
話が逸れたが、とにかく彼女がこんな風に関りのない男子に話しかけられることは、本当に異例の事態だった。
Aは健吾に見えない表情で、目を見開いた。返事をするべきか寝たふりをするべきか、迷うところであったが、変に悪評を立てられるのを不安に思ったAはゆっくり上体を起こして愛想笑いで彼を見た。
「えっと、ありがとう。でも大丈夫。それにそろそろ帰ろうと思ってて」
当たり障りなく受け流せば、彼はすぐ去るだろうと思ったけれど、何故かそうはいかなかった。
「足速いんだね。男子の中でも驚いてたよ」
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
