一通目 ページ1
「はぁ……」
ため息一つ咲かせた、ある日の放課後。
その少女が手に持っているのは、体育祭の要項だった。
彼女は名をAAといい、高校二年生である。
Aは周りの人間から見たとき、これといって特徴もなく目立たず、ややもすれば忘れられてしまうような、そんな存在だった。
ただ、だからといって勉強や運動が不得意な訳ではなく、どちらかと言えば得意な部類だった。しかし目立つことが嫌いで、他人の評価を気に病むところがあり、今までは文武ともに表立って何かすることは避けてきた。
そんなAであるのに、二百メートル走のクラス選手になってしまい、彼女は頭を抱えていたのだ。
例年、体育祭で出る種目と言えば、絶対参加種目と玉入れやムカデ競争などの個人が目立たないものだった。
「変えてもらいたい。でも無理……」
もう決定済みのものを変更するのは難しいのも分かっていたし、何より変更を申し出ることで悪目立ちしたり迷惑をかけたりするのが嫌だった。
従ってもうこの決定を飲み込むしかなく、Aはもう一度、今度は小さなため息の霧を落とした。
何故Aがこの種目に決まってしまったかというと、話は三日前に遡る。
Aの学校では部活動への所属が任意であるため、人付き合いが苦手な彼女はどこにも籍を置いていなかった。けれど、授業が全て終わった後、誰も居なくなった教室に残ることも多かった。
その日の放課後も、Aは教室に居た。
しかしその日は授業の課題や予復習を終えた後にうたた寝をしてしまい、目を覚ました時には完全下校時刻が近づいていた。そして急いで帰ろうと思って立ち上がった時、窓の下の風景から目を離せなくなった。
そこには一人の男子と一人の女子が並んで、仲良さげに歩いていた。
それは他の人からすれば何の変哲もない光景だが、Aには苦しくて、出来れば嘘であって欲しいものだった。
何故ならその姿の片方である男子に密かなる想いを寄せていたからだ。
体全体を締め付ける辛い痛みだった。"切ない"は、心を切られるから"切"という字が使われるのか、と思う程に。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
