六通目 ページ6
「Aー、まだか？」
なかなか下りてこないAを兄が階下から心配そうに呼ぶ。
彼女は慌ただしい感情の波で夕飯のことなどすっかり忘れてしまっていた。兄の声で現実に引き戻され、この時やっとそのことを思い出した。
Aの性格を把握している故なのか、普段から心配性な芳孝は少しでも妹の異変を感じると彼女の部屋へとやってくる。その証拠に、帰宅時に部屋に来たのもそうだが、今ではもう一度階段を上り始めていた。
客観的に見れば、異常なまでの妹熱。芳孝の友人はしばしばこの妹に対する執着を非難したが、彼はそれを気にする様子は全くなかった。友人達は、その妹や妹の恋人になる男の苦労を想像しては同情していた。しかし友人の予想に反してAは、兄のこの性格をそれほど苦にしていなかった。
そうは言っても今この手紙の存在を兄に知られることは、とにかく都合が悪かった。何しろ今までAに浮いた話は一方的な片想い以外一つも無かったので、大騒ぎされるのが感覚的に分かったからだ。
「今行くから！」
彼女は大き目の声を出し、兄の足を遮った。そして急ぎ足で階段を下りたら、案の定そこには兄が居た。
兄に探るような眼差しで射抜かれたAは、背中に冷や汗を滲ませながら「早く食べようよ。お腹空いたー！」なんて若干わざとらしい演技をしてその場を切り抜けた。
胸の中がぐるぐるとしているせいか、あまり進まない食事だった。しかし残すとまた心配されるので、Aはいつもより時間をかけて食べ終えた。
「お前さ、今さっきまた何かあったろ」
食器を洗う兄が突然そう問いかける。テーブルを拭いていたAは、ギクリとその手を止めて黙り込んだ。言わずに通すか言うべきか、どちらがいいのか判断が出来なかった。
「言いたくねぇのか。でも一人で悩むなら俺に言えよ？」
背中を向けたまま手を止めずに話し続ける兄の声は、少し寂しそうに思えた。Aも兄に依存している部分が、芳孝のそれまでではないにしてもあるのは確かなので、その声に申し訳なさを感じる。下唇を少し噛みんで視線をあちこちに泳がせた。
そしてAは兄の背中に何も言わずにくっついた。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます！幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (
レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月1日 23時
