求めるもの望むもの ページ50
もう一度、抱き締められる。柔らかな匂いが鼻をくすぐる。泣きすぎて腫れ上がった瞼や疲れた体が、奥さんの体温で癒されてゆく。
求めていたんだと思う。ずっと私はこの温もりに飢えていた。ある日それを失ってから、時に置き去りにされていた。今、止まったままの時計が微かに動いた気がした。
「私、Aちゃんのお母さんの代わりになりたいの。なれない、かしら？」
望んでいた言葉がそのまま贈られたと思う。けれど、その手をとってもいいのだろうか。
「それは……」
少し奥さんの胸を押し返して、告げようとする。
その離れようとする僅かな力は、彼女に不安を与えるのには十分だったようで、更に体を苦しいほど抱き締められ、反発の力は一気に打ち消された。
「たまに、こうしてお話したり、出かけたり、相談に乗ったり……抱き締めたり。そんな関係になれないかしら？ お願いだから……」
取り乱し、焦って言葉を繋ぐ彼女。会った時から感じていた相手を包み込むような余裕は、跡形も無かった。
きつく私を抱きながら、さっきまでの私と交代したかのように泣き続ける彼女に、返す言葉がなかなか見つからなかった。
暫く経った後、ポツリと声を漏らしたのは奥さんだった。
「ごめんなさい。分かっているわ、誰かの代わりなんて出来ないこと」
その後、やっと私は口を開いた。
「そうじゃないんです。あなたから感じる愛情は、母のものでした。心の底から嬉しかった」
「じゃあ！」
ぱあっと顔を明るくした彼女にとって、この先に続く言葉は残酷かもしれない。
「でも、今のままでは、きっと無理なんです」
案の定、彼女の目はまた潤んだ。
「奥さんが、朝倉さんからの愛情に気付いて、心から幸せだと言えるようになったその時、気持ちが変わってなければ、また私と会ってください」
奥さんは今まで、与えるだけで返ってこない愛に疲れていた。
その傷を癒すために、母親という無償の愛の象徴になろうとしているんだ。
だから今ではなく、彼女が満たされた後に、その愛を聞かせて欲しいと願ってしまう。
それに私はまだ、彼女の手を握る資格はない。
「さようなら」
その場を去り、連絡を入れる先は一つしかない。
つづく……続編へ
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます！ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (
レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ！続き楽しみにしております((｡´･ω･)｡´_ _))ﾍﾟｺﾘﾝ (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます！誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか？意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年5月21日 5時
