あなたの母�� ページ48
「新婚さんですか？」
「新婚ではないですし、良き妻でもないです」
固まっていた私は我に返り、自嘲めいた声で答える。
そして合点がいった。この人は私達の演技に騙されているのだと。
「いいえ、素敵な奥さんだわ。あなたは旦那様に恋をしてらっしゃる。いつまでも恋い慕う瞳で妻に見つめられるなんて、旦那様は幸せでしょうよ」
けれどその言葉で、この人は演技を見て私を良妻と言ったわけではないと分かった。
自分も知らなかった自分を知る。
私はずっと彼に恋をしているんだ。両想いだったのが急に片想いになって、近いのにずっと届かない距離に胸を痛めている。
けれど、それが彼の幸せになっているとは思えない。むしろ、重い鎖になっているはずだ。
「そうでしょうか……」
「自信をお持ちになって下さい。それに、あなたはとても美しいです」
目を伏せる私を、彼女は愛情深い声で包む。
「娘には、是非あなたのようになって欲しいわ」
「こんな辛い思いをされては駄目です」
「今、お辛いの？」
「ええ、とっても」
「大丈夫、あなたならきっと幸せになれるわ」
彼女は私の手に何かを握らせた。
それは、ハーバリウムのストラップだった。内部を液体で満たされている丸い容器の中に、可愛らしい花が入っている。
「これは昔、娘がくれたものなの。苦しんでいる私が救われるようにって。カランコエっていう花なの。幸福を告げる、あなたを守るって意味があるのよ。」
「あなたに受け取って欲しいの」
「そんな大事なもの……！」
「いいのよ。このまま私が持っていたら勿体無いことになるから」
「それはどういう意味――」
私の言葉は、彼女の深い哀しみを含んだ微笑みで遮られ、それ以上聞くことは許されなかった。
「私は仕事がありますから、もう行きますね。ごめんなさいね、引き留めてしまって」
歩を進め始めた彼女の姿は切ないほどに儚かった。
せめて、名前くらい聞いておくべきだったと気付き、去りゆく彼女のネームプレートの名前を見ると『矢田』と書かれていた。
それから数日後、あるパートタイマーの女性が自ら命を絶ってしまったと夫から聞いた。嫌な予感が襲い、その女性の特徴や名前を聞いた。そこに待っていたのは、悲しい真実だった。
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます！ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (
レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ！続き楽しみにしております((｡´･ω･)｡´_ _))ﾍﾟｺﾘﾝ (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます！誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか？意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年5月21日 5時
