仲の良い夫婦 ページ25
予定の10分前にカフェに着き店内に入ると、既に奥さんが座っているのが見えた。目が合うと、軽く会釈をされた。その動作や佇まいに品の良さが表れている。
そのせいなのか、単なる緊張なのか、やたらと脈が速くなり手が汗で湿る。そしてガチガチと効果音が出るくらいの、男らしさの欠片もない歩き方でその席へ向かった。
「こ、んにちは。」
「ええ、こんにちは。どうぞ座って下さい。」
えらく不格好な挨拶になってしまい、羞恥心が緊張に拍車をかける。それとは対照的に奥さんは落ち着き払っていて、声色もどうぞと席を指し示す手も優美である。
やはりこの人の前になると、自分が幼くなってしまう。だが、惨めになるのではなく、彼女の雰囲気に包まれる感覚を抱く。きっとそれは、奥さんが俺の不格好な部分を指摘するでもなく、嘲笑を向けるでもなく、変わらない態度で接してくれるからだろう。
しかし、今日俺はこの人の相談を受けに来たのだ。頼れる男にならなければならない。一つ礼を言ってから向かいの席に座る。テーブルの上には水の入ったグラスだけがあり、表面に結露ができていないことから、彼女もまだ来たばかりだと推測し、胸を小さく撫でおろした。
注文した二人分のコーヒーが運ばれてくると、早速ですがと奥さんは話し始めた。
「先日、相談に乗って頂きたいと言ったのは……主人のことなんです。」
え、と疑問符の付いた短い声とともに驚きで眉を少し上げてしまう。すぐに明るい調子で次の言葉を繋いだ。
「何かあったんですか?仲の良いご夫婦にも悩み事はあるんですね。」
これは建前でも何でもなく本心だった。確かにあの日は朝倉夫婦に疑問を感じたけれど、後になって考えると彼らが手を取り合っているところなどが思い起こされて、違和感は勘違いであり仲の良い夫婦なんだと一人納得していたからだ。
だが、俺の言葉を受けて、奥さんの表情が冷笑に覆われる。それはまるで、自身の夫婦を第三者になって眺めて嘲笑っているようだった。ややあって、その表情のまま外に視線を向けて口を開いた。
「仲の良い夫婦……」
再び沈黙が訪れる。奥さんが俺の言葉を反芻したことで、尋問されているような気分になり妙な背徳感を感じる。
暫くして、真っ直ぐ射抜くような視線を俺に向けてこう言った。
「本当にそう見えましたか?」
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます!ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ!続き楽しみにしております((。´・ω・)。´_ _))ペコリン (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます!誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか?意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年5月21日 5時