夫婦の幸せのかたち ページ48
-恵美side-
Aちゃんから連絡が来て、心が躍った。
たった一晩だけだった、それだけなのに、もうずいぶんと彼女の連絡を待っていたように感じる。待つ間何をしていたかの記憶も失う程に、私は意識を手放して待ち焦がれていたのだ。
返事が来るなんて、私達の関係を考えればほとんど奇跡に近かったと思う。
あの子にもう一度会える。憎むべき相手のはず、人に話せば冷たい目で見られるだろう。勿論、悔しかったり憎らしかったりした時はあった。でも、私の中で愛情と呼ぶ感情は消えなかった。
初めて会った駅でもう一度彼女と待ち合わせた。
「久しぶりね」
既に佇んでいた彼女に、そう一言かけた。
一瞬別人かと思った。少し痩せた線とそれとは反対に凛とした立ち方、それでいて柔らかい雰囲気――以前の彼女とは違った輝きがあった。
その輝きは哀しみから咲いたものだと分かったのは、以前にも増して儚い彼女の表情を見た時で、その笑い方に私の心は散らばった。
「どこかお店に入りましょう」
何故かしら彼女を失くしそうで怖くて、時間を繋ぎ止めたかった。
けれど、彼女は止まったまま、申し訳なさそうに泣きそうな顔で言った。
「いえ、あの、そこのベンチで話しませんか」
それは、私達の関係の終わりを意味すると悟った。だから、無理矢理流れを止めるように、座るなり声を急いだ。
「私、前に言ったことを本当にしたいの、分かって?」
声は寒い地面に落ちた。
暫くして彼女が答えた。
「本当は嬉しいです。でも、私の過ちは消えませんから、ごめんなさい。今までありがとうございました。……幸せで居て下さい」
絶え間ない涙と共に頭を下げる壊れそうな笑顔に、言葉が出なかった。
さようなら、と背を向ける彼女に私から出た最後の言葉は「幸せに笑っていて」の一言だけだった。
喪失感に満ちて家に帰り、涙を拭いて抑えつけリビングに入ると、愛しい人は目線の下にやって来た。その姿に戸惑う。
「ねぇ恵美、もう一回結婚してくれないか」
ひざまずく彼に手を取られる。
「挙式したいんだ、心の通じ合った夫婦になれたから」
温もりに乗せて贈られた言葉が体を廻った。
「はい」
抱き締められ、心の泉が溢れた。涙も止まらなかった。
後日、小さなチャペルで本当の愛を二人きりで誓った。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時