追憶 ページ4
押し寄せる未練――もう吹っ切れた、決心を固めたと思っていたのに。
「もう行きます」
「待って!」
「ごめんなさい……今まで、ありがとうございました」
彼の声を振り切って、席を立つ。握られていた手は、もう力が弱くなっていて、それが切なさを煽った。寂しく一瞥して、離す。行き場を失った手を反対の手でそっと摩りながら、ドアまで歩く。
指が体温を、耳が声を、目が眼差しを、髪の先まであなたを覚えている。
けれどここに来て、戻れはしない。
「終わったんだ……」
涙は、まだ出ない。それを追い越して心に響くのは、虚無感、喪失感といったところだろうか。心の穴が再び開いて、それは以前より大きい。何かを感じる余裕がない。
昼下がりの空は、どこまでも突き抜けていた。私の心は隠れない。
三年半ほどの歳月は長いようで短かった。けれど、彼の優しさに埋もれた日々は、私の中に深く残っている。
口には出せない恋。寂しかった、辛かった、それでも幸せだった。
私はやっと新しい明日に一歩踏み出す。ただ彼が居なくなるだけ、それ以外の毎日は変わらず流れるだろう。それなのに、どうやって生きたらいいのか、戸惑っている。
知らず知らずのうちに、全身が彼に染まっていた。その色が一気に抜けた今、私は何処に向かえばいいのだろうか。
『別れたよ』
一人で抱えきれなくて、由貴にメッセージを送る。すると、すぐに返信が来た。
『今、大学に居るから、おいでよ』
助かった、今は一人で居られなかったから。そんな気持ちを分かったかのように、会おうとしてくれる彼女の優しさが、じわりと沁みてゆく。
本当に、彼女は私には勿体ないくらいの友人だ。
鞄に携帯をしまい、ゆっくりと歩き出す。何度か鳴っていた着信音には、気付かないふりをした。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時