花綻スローフォックストロット (ページ37)

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幸せの黄色い野菜/fkr ページ37

「あ、菜の花」

今日はスーパーのセールだから、と荷物持ちを拳くんにお願いした日のこと。セールだからとあれこれカゴに詰め込んでいるうちに、予定よりも随分多い食材を買うことになってしまって。重たいエコバッグを2人で分け合って帰る途中、彼がぽつりと呟いたのだ。

「どこ？」

彼の視線の先は可愛らしい一軒家の家庭菜園らしきものだった。彼の肩越しに覗くと、実をつけたばかりのエンドウや、アスパラガスが植えられている中に、背の高い黄色い花が咲いていた。

「…拳くん、あれ菜の花だけど別の野菜だよ」
「えっ」

花は菜の花によく似ているけれど、丸みがかった葉は菜の花のそれではない。そう言うと、目をまあるくして心底驚いていた。

「何の野菜か当てられなかったら、今日の夕飯トマトばっかりにしちゃおうかなあ…」

ちょっとだけ魔が差して提案をしてみれば、彼はきゅうと眉根を寄せた。そんなに嫌か。

「えぇ…Aひどくない？」

決定事項だよ、と告げると、彼は野菜だらけの夕食にさせまいと真剣な顔で考え始めた。その真剣さが何だか面白くて、笑いがこみ上げてくる。

「これだからやめられないんだよねぇ」

拳くんをいじるのは。野菜を食べてほしいという気持ちももちろんあるけれど、それ以上に彼のリアクションが面白いから。どんなトマト料理を作ろうか、と考え出したら、ニヤニヤが止まらなかった。