スターチス行きの鈍行で/kwmr ページ3
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「あ、ほつれてる」
お風呂に入ろうとセーターを脱ぐと、着古したセーターの袖口がほつれていた。気に入ったらそればかりになる傾向がある私が2年も着倒したそれは、もう随分と寄れてしまっていた。
「でもなぁ…もらったやつだし……」
2年前のクリスマスに拓哉さんがくれたブラウンのノルディックセーター。彼がよく着ているものに似ていて嬉しくて、服を断捨離するときも『これだけは!』と残したものだった。
もうそろそろ、御役御免なのかしら。思い出として取って置いた方がいいのかな。口元まで湯船に浸かりながら、ぼんやりとそんなことを考えた。
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「拓哉さぁん、お風呂どうぞ」
まだ少し濡れた髪を櫛でときながら声をかけると、読書中だったらしい彼は栞を挟み、名残惜しそうにパタリと本を閉じた。
「栞、ずいぶん使い古してるね」
「え、ああ…」
相当使い込んだように見えるその栞は、押し花にされたピンクのスターチスが色褪せていた。
「大事だからね、これは」
すり、と拓哉さんの指が栞を撫でる。擦り切れつつあるリボンは、元はもっと素敵な紺だったに違いない。
…それにしても、どこかで見たような。既視感がふわりと首元を撫ぜた。えっと、あれはきっと、確か。
「まだ…持ってたの。」
私が、付き合う前に拓哉さんにプレゼントした栞だった。3年前、ネモフィラの花畑を見に行ったときに買って、何の気なしに彼にあげたのだ。
たった3年前の話を今まで忘れていたのは、栞が随分色褪せてしまっていたから。そんなに、使ってくれるだなんて、あの頃は思いもしなかったのに。
「大切、だから」
思い出した?と微笑む彼に、何故だか泣きたくなった。
「私も、セーターとっとく、」
「ありがとう」
何よ、お礼を言うのはこっちの方でしょう。どちらからともなく近付くと、時計の短針がカチリと音を立てた。
このままずっと、大切にして。
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ピンクのスターチスの花言葉『永久不変』
ネモフィラの花言葉『可憐』
栞の由来は『道標』ということでタイトルに。
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時