持論 ページ19
一通り目を通した便箋から顔をあげ、クラサはしんぺい神へ向き直る。
丁寧に畳まれて封筒へ戻されたそれに書かれた文字は今のグルッペンと比べると拙いもの。
ついでに言えば、その内容もどこか遠い未来の仮定の上で成り立っているように考えられる。
「この手紙はいつ頂いたものなのですか」
「子供の頃の口約束の後。お前が忘れると困るから、ってグルッペンが学寮から送ってきた手紙やで」
有言実行て怖いねー、と呑気に笑うしんぺい神は封筒を受け取ると再び引き出しの奥へと大切に仕舞い込んだ。
椅子の背に軽く体を預けた彼は、クラサの小さく漏らした呟きを耳にする。
「……ぺ神様も有言実行をしておられます」
「それって……グルッペンの国の軍医になれたって事？」
まさか聞かれるとは思っていない独り言へ質問が投げられ、一瞬硬直するもののクラサは「はい」と頷いた。
それを見るなり、しんぺい神はある訂正を入れた。
「グルッペンの為や無いよ？俺が医療関係の事を学び続けたのは」
平然としたしんぺい神とは異なりクラサは理解が追い付かないのか、どこか面食らったように彼を見つめている。
そんな彼女が面白いのか、しんぺい神は更に口を開く。
「単純に俺の為。本当にグルッペンが俺を誘ってくれた時、俺がグルッペンの側で医者として働けるように。
グルッペンの役に立ちたい以前に、俺自身がグルッペンの側で仕事がしてみたかったってだけだよ」
そう続けた彼の表情は雑面で見ることができない。
しかし声にはきちんと芯が通っていた。
「自分の……為、ですか」
「そうそう。人の役に立つ立たないの前に、自分がやりたいかどうかを確かめるのも悪くないよ？ちょっと我が儘なくらいが生きていく中でも丁度良いと思うんやけどなー」
持論を展開し、どこか気が晴れたように伸びをする。
ふっと体の力を抜いたしんぺい神は相変わらずの緩い笑みを口元に浮かべた。
「今すぐや無くてえぇから、クラサちゃんもやりたい事やってみなよ。戦闘兵器以前に俺らの仲間なんやから……」
たまには自分に素直にね、とクラサの肩を軽く叩き、腰を上げた彼は医務室の奥へと姿を消す。
どうやら薬品庫へと向かったようで、しばらくは戻ってきそうにない。
「では……お邪魔致しました」
クラサがそう声を掛ければ「またねー」としんぺい神が顔を覗かせて手を振っていた。
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CrazyBook(プロフ) - 鳥類志望さん» コメントありがとうございます。本当に不定期で遅い更新ですが、気長にお付き合いくださいね！ (2020年7月27日 6時) (
レス) id: 89127ffd6d (このIDを非表示/違反報告)
鳥類志望(プロフ) - コメント失礼いたします。以前コメントさせていただいたキツネというものです。また更新再開していただいてとても嬉しいです。また更新頑張ってください、応援しております。 (2020年5月9日 6時) (レス) id: 5b352d10cf (このIDを非表示/違反報告)
CrazyBook(プロフ) - コメント、ありがとうございます！更新が滞っていて申し訳ありません。時間はかかりますが、必ず完結には持っていきますので気長にお付き合いください。 (2019年8月12日 8時) (レス) id: 89127ffd6d (このIDを非表示/違反報告)
キツネ(プロフ) - はじめまして、コメント失礼致します。当方、こちらの作品が作成された当初から閲覧させていただいておりますがとても面白く、文章も綺麗で大好きな作品です。お忙しい中更新大変かと思われますが応援しておりますね。 (2019年7月25日 10時) (レス) id: 5b352d10cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：CrazyBook | 作成日時：2019年1月8日 23時
