幻覚 ページ4
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これまで他人事みたいに実感できていなかったことが…
いま、初めて現実味を帯びて、胸を締め付けて。
涙がぼろぼろ零れて止まらない。
いやだ！
好きなの。
大好きなんだもの。
離れられるはずがないじゃない！
手を離すなんて考えられるはずがないじゃないっ！！
溢れる涙は止まらなくて。
それを隠してくれるかのように、ぽつり…ぽつり…と頬や髪に雨粒が落ちたかと思うと、ざっ…と強い雨が降り始めた。
打ち付ける雨にただ立ち尽くす。
ああ、あの時と同じだ…
ピンクのパーカーで雨を避けた時と同じような急な雨…。
今はもうすぐ12月。
あの時よりも雨は冷たくて、風も激しくて。
でも…
この雨に打たれて、この風に晒されて…
何もかも…
全てが流れてしまえばいいのに…
そんなことを思い、雨雲を見上げて可笑しくなる。
バカだよね。
こんなことで現実が変わるはずもない。
だけど…今は…。
「う…」
内示を聞いてから初めて泣いた。
泣いて泣いて。
和也が恋しくて、シャツを抱き締めて思いっきり泣いた。
「和也…」
愛しさと切なさで胸が掻きむしられそうだ。
和也に会いたい…
会いたいよ…！！
「…ちょっと！！オマエんなとこで何やってんの！！」
不意に背中から声がした。
…え？と思う間もなく、濡れた身体が正面から温かな温もりに包まれて。
ぎゅうーっと強く抱き締められて、息が止まりそう。
ああ…
きっと幻だ…
会いたすぎて雨の中、幻覚をみてるんだ…
でも…
「かず…な…り…」
名前を呼んで背中にそっと両手を廻してみると
「ん…」
吐息で返事が返ってきて、すりすりと顔が私の首元に埋められる。
抱き締めてくれている両手に、更に強く力が籠められて。
「ごめん…待たせた…」
この声…
この感触…
…本当に？
「え…？ど、どうして…」
戸惑う私に、顔を埋めたままの和也が耳元で囁いた。
「めっちゃ頑張って、ロケ終わらせて帰って来た」
うそ…
「う…」
背中に廻した両手に力を入れて、思いっきり抱き締め返す。
幻覚じゃない…。
和也だ…。
本物の和也だ…。
ドアのガラス越しでもない、電話越しでもない。
正真正銘、本当の和也が目の前に居る。
誰よりも会いたかった人に抱き締められて。
雨の中、2人とも濡れてしまうというのに…
大事な話があるのだというのに…。
私は、罰当たりなくらい幸せで。
心が震えた――――。
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作者名：kico
| 作成日時：2019年5月30日 12時
