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リビングのカーテンを開けると、いつの間にか夜空に暗雲が立ち込めて強い風が吹いている。
やだ、ずっと考え事をして気付かなかった！！
固定していたはずのシャツは、風で飛ばされてバルコニーの隅ではためいている。
かろうじて裾が引っかかっているけれど、今にも外れて飛んでいきそうだ。
いけない！！
カラリとガラス戸を開けて外に出ると、急いで駆け寄り、シャツを手に取ってしっかり抱き締めた。
ああ、間に合った…！
ホッとして顔を埋める。
風に晒されていたシャツからは、もうあの不快な香りはしなかった。
代わりに感じるのは…微かな和也の匂い…。
愛しい人のそれは、私を包んでくれる和也の胸の中の心地よさや体温、温かな鼓動を思い起こさせて…
「……。よかった…」
口に出して呟くと。不意に。
…――――！！！
胸の奥底から、訳の分からない感情が突き上げてきた。
イヤだイヤだイヤだ！！
傍に居たい、ここに居たい、和也の胸の中に居たい！！離れたくなんかない！！！
ギュッとシャツを抱き締めて目を閉じると、次々と浮かんでくる和也との想い出。
マサトの部屋から飛び出した時のこと…
声を掛けてくれた和也に安心して零れ落ちた涙…
車の中で胸を借りて泣かせてもらった時の温もり…
初めて私の部屋の玄関で唇を重ねた時の痺れるような高揚感…
二宮さんから 和也と呼べるように誘導された2度目のキス…
初めて…2人で過ごした夜…
『…おいで』
初めてこの部屋に連れてきてもらった時の緊張も。
『Aが、いつもすっげー頑張ってんの…ちゃーんと知ってるよ…』
疲れて帰ってきた私に、目を細めてぽんと左手をのせて笑顔で労ってくれた時の嬉しさも。
『このままっつったろ』
ケンちゃんの声を聴きながら強引に組み敷かれた時の戸惑いも。
『十分価値があるってことでしょ…』
ブレスレットがシャランと揺れる手首を目の高さまで持ち上げて、優しく押し当ててくれた唇の愛おしさも。
地下駐車場で酔っ払いの人に絡まれていた時に助けてもらったこと…
出勤前にスイッチが入って遅刻しそうになったこと…
タクシーの中で指先が触れ合い、自然と手が重なり合ってドキドキしたこと…
全部全部覚えてる。
寝室で夜景を眺めていた時に後ろから抱きしめられた切ない夜…
広いベッドの上で隙間がないほど抱き締められて、指切りをした約束…
和也と過ごした時間が、次から次に頭を駆け巡る――――――。
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作者名：kico
| 作成日時：2019年5月30日 12時
