10倍 ページ6
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「おもーい(笑)！」
押し返してみたら少し楽になったけど、それでも思うほど押し返せない。
返事もない。
コントローラーの操作音が聞こえてくるところをみると、どうやらゲームに集中しているらしい。
うーん、ということは…。
本当にこの体勢を変える気はないってことだよね。
…なら、いいや。
ちょっと押し返させてもらったし、さっさと洗濯物を畳み終えていつでも立ち上がれるようにしておこう。
前かがみから少しだけ和也に体重を掛けてバランスが取れている状態で、私もそのまま手を動かした。
季節は６月。
窓の外は静かな雨。
今日は一日中ずっと雨だった。
東京でもここ数日は長雨で気温も低くて、いわゆる梅雨冷えのする日が続いている。
少し肌寒い夜に、広い部屋で背中合わせに２人。
くっついた背中はお風呂上がりで温かい。
手元からは洗濯物のいい匂い。後ろからはお風呂上がりの和也の匂い。
今のこの体勢は重たいけれど、ホントはそこまでイヤじゃない。
幸せな匂いに挟まれているのは悪くないかも…。
そんなことを思いながら、コントローラーの操作音とゲームミュージックを耳に、残りの洗濯物をゆっくりと畳んでいく。
夜は私たちを包んで、静かに更けていく…。
＋＋＋
ほとんどの洗濯物を畳み終えて、洗濯カゴに手を入れて最後に取り出したのは、和也がいつも着ているTシャツだった。
これも随分くたくただけど、新しいTシャツもあるのに好んで着てるよね。
気に入ってるワケじゃない、拘りも思い入れもないし、新しいの出すのめんどくさいし、それしかないから同じの着てるだけって和也は言うけれど…
やっぱり着心地が悪かったら、こんなに長くは着続けないと思う。
なんだかんだ言いながらも、ずっと着てるうちに身体に馴染んで、和也曰くの思い出がそこに乗っかってきて…
つまりは、それが結局、気に入ってるってことなんじゃないのかな。
…なんてね。
そんなことを言うと、きっと「バカ言ってんじゃないよ(笑)！」と屁理屈な和也の言葉が10倍になって返ってくるんだろうな。
…口に出すのはやめておこう(笑)。
そう思ったら、くす…っと笑みが零れた。
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作者名：kico
| 作成日時：2016年7月2日 7時
